僧ヶ岳(倒木事故に遭遇して)


- GPS
- 07:09
- 距離
- 14.5km
- 登り
- 1,493m
- 下り
- 1,303m
コースタイム
- 山行
- 7:03
- 休憩
- 0:06
- 合計
- 7:09
天候 | 曇りのち雨 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2025年04月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
宇奈月スキー場は雪が途切れ途切れ スキー場から上の登山口以降は雪は繋がっている |
写真
感想
このたび僧ヶ岳で倒木事故に巻き込まれ救助頂いた富山県山岳警備隊の方々、搬送された黒部市民病院、転院した済生会金沢病院の皆様に深く感謝申し上げます。
長年登山を続けて来て2年前の骨折事故に続き自身病院のお世話になることは二度目ですが医者としてこの体験が一人でも多くの登山者の他山の石になることを願って報告させて頂けたらと思います。
この日は午前10時頃から雨が降り出す予報だったのでその前に下山しようと深夜スタートで宇奈月や黒部の夜景を見ながら順調にスキーを進め予定通り朝7時には山頂に着き雨が降る前に下山できるだろうとスキーで山頂を後にした。
無事登山口に着いて後は400mほど林道を進めばスキー場でもうしまいと安堵した。
林道には雪が片斜面で残っており行きはツボで進んだが帰りは片斜面をスキーで滑った。
スキー場まで後わずか100mという場所で上から落ちて来た倒木が斜面に寄り掛かり斜めに雪の上に傾いていた。行きはツボでギリ端っこを跨いだが帰りはスキーだから逆側を潜り抜けようとした。
潜り抜けた時微かに肩が擦れたかと思った瞬間倒木が斜めから下にずれ落ちた。
一瞬で数百キロもあろう倒木が自分の腹部にドスンと落ちて倒された。ギロチンのようだった。
同時に右足も変に折り曲がってしまい仰向けの状態でびくともしなかった。
息が苦しい、呼吸が出来ない、地震で倒壊した家屋の下敷きになるクラッシュ症候群と同じである。単独では全く身動きが出来ないのでこのままだと長く持たないと初めて死を覚悟した。
家族には今ココで場所はわかるだろうが見つかった頃にはもう息が持たないだろうと思った。落ち着いて冷静になって生還できるか考えた。最後まで諦めないで生き抜こう。まず左足のスキーを外して左足で倒木を押しのけようとしたがびくともしなくて諦めた。背中のザックは押し付けられた状態。そうだ携帯がある。携帯は日頃からザックの中ではなく肩ベルトにリーシュを付けていつでも取り出せるようにしていた。
手を伸ばして見えない肩ベルトに触れると携帯に何とか届いた。携帯に向かって緊急通報お願いと呼ぶと110番に繋がった。僧ヶ岳平和の像からしばらくの林道で木に挟まれて息ができない状態です。救助お願いしますと名前だけ言って切った。それができる精一杯だった。
雨も降り出し空を見上げながら圧迫され呼吸が辛い状態で後どれくらい持つだろうかと弱気になった。早くこの木をどかしてほしい、一度電話がかかって来たがもう限界で出ることは出来なかった。
警備隊経由で家族に電話が掛かったようで今ココで僕の位置は伝わっていたようだった。今ココは電波が届かなくても現在地が分かるから有益である。最近は必ず今ココで家族に山での居場所は伝えるようにしている。
倒木も徐々に重みが増してきて呼吸がさらに辛くなり次第に意識も薄れていくのがわかる。辛い苦しい、通報してから2時間ほど頑張ったがもう限界に近いと思った頃ヘリが上空に現れた。助かるかもしれないと思った。
ヘリが旋回してもう一度現れた頃山岳警備隊の方々が5−6名で駆けつけて大丈夫ですか頑張って下さいと励まされて背中の雪を掻き出してスペースを作り倒木から救出された。間に合った助かった。
すぐにヘリに乗せられたが右足は変な方向を向いていて骨折しているのがわかった。すぐに黒部市民病院に搬送されICUで治療を受けた。この病院は自分や息子もお世話になったことのある病院で知っている医師を多いので安心であった。
検査の結果右足の腓骨粉砕骨折と靱帯断裂、肋骨5本、腰椎横突起3本の骨折、圧迫されたことによる左副腎出血、血胸、肝臓挫傷、腎不全との診断であったが一命は取り留めた。救助が早かったのが不幸中の幸いだった。
今は金沢の病院に転院して全身状態が回復すれば骨折の手術を行う予定、事故以来絶対安静で絶食状態が続いているが少し元気が出て来たので記憶がしっかりしている内にと書き留めている。
山で事故に遭うかどうかは紙一重、生死を分けるのも紙一重、ハイリスクの登山も里山登山も安全の確証はない、リスクのある山行回数を積み重ねていれば確率的にトラブルに巻き込まれることは必然である。自分の山行回数はすでに2500回ほどで厳しい山行も多い。熊や猪の遭遇なんて日常茶飯事、自分だけでなく仲間の事故も何度も目の当たりにして来た。そして極力単独行は避けるようにもして来た。しかし山を続ける以上は想定外の事故は起きてしまう。山に行くなという意見にも一理ある。
しかし人は必ずいつかは死ぬ、ただ長生きすることより楽しく人生を全うする生き方がしたい。助かったのはもうしばらく社会貢献しろという神のお告げと思いたい。
今回も多くの方にご迷惑をおかけしてしまった。この記録が少しでも多くの登山者の事故抑止のお役に立つことを祈って筆を下ろしたい。
最後に警備隊の方々及び病院関係の方々には大変お世話になりました。
どれだけお礼を申し上げても尽くせません。命を救われました。
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