白馬岳(大雪渓で滑落した話)


- GPS
- 13:22
- 距離
- 13.6km
- 登り
- 1,674m
- 下り
- 1,684m
コースタイム
- 山行
- 12:01
- 休憩
- 2:04
- 合計
- 14:05
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2023年06月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
大雪渓は現在はまだ12爪アイゼン、ピッケル必携(後述)。ウェアは季節に準じてでよいと思います。雪渓内の吹き下ろしの風が少し冷える。 |
その他周辺情報 | 白馬尻小屋は現在休業中。 頂上山荘は人がいたがcloseの看板。テントを張っている人たちはいたので、売店が閉まっているだけなのか、時間帯なのかは不明。 |
写真
結論としては、全くの装備不足でした。
私を追い越していったそれぞれベテランさんお二人ですが、お一方はチェーンスパイクしか履いておらず、非常によいペースで登って行ってたにもかかわらずこの先で撤退を決断され、下山するところをすれ違います。英断だったと思います。
6爪野郎はここで引き返すべきでした。山頂がもう見えていたとしても。蹴り入れて階段を作るとかいう創意工夫でどうして登っちゃったのか。
感想
恥を忍んで申し上げます。白馬岳の大雪渓、その上部で滑落しました。原因は装備不足と、撤退の判断が遅れたためで完全に自業自得なのですが、自分の恥が誰かの事故を防ぐことができれば、それはそれで恥を晒した甲斐があります。骨折り損ですが、くたびれながらも儲けたものもありました。よろしければお付き合い下さい。
#装備について
事前の情報収集では、某三百名山の書籍では「初心者や雪渓に不慣れな人は6爪アイゼンを履きましょう」とあり、直近のヤマレコでは「チェーンスパイクも不要でした」などのコメントも。その一方で、別の方の投稿されている写真を良く見ると12爪アイゼンを履いていたり。大方の人はポールを持っていました。
さてさてどうしたものか。大雪渓としてよく取り上げられる写真を見ながら、このくらいの斜度なら6爪でも充分登れると判断し、6爪アイゼンと雪用ポールで行くことにしました。
これが一つ目の間違い。結果としては12爪アイゼン(最低でも前爪のあるもの)+ピッケルは必須。できればヘルメットも。少なくとも6月下旬時点では、これらが雪渓上部を突破するのに必要でした。
たぶん振り返ってみると、書籍は7月以降の完全夏山を想定した内容だったんだろうと思いました。
#撤退の判断
最初のきっかけは雪渓後半にかかり傾斜が強くなってきた辺りで、チェーンスパイクを履いたベテランさんが降りてくるのとすれ違いました。お話を聞くと、もうこれ以上は危なくて進めないから引き返してきたとのこと。自分はまだ軽アイゼンで、その場所ではグリップがしっかり効いていたこともあり、もう少し進むことにしました。
これ自体は誤りとは言えないのですが、この時に撤退基準を予め決めておけばよかったと思います。
次のきっかけは、雪渓上部でいよいよ登るのが難しくなったときでした。ひどいところでは50°くらいあるんじゃないかという傾斜で、前爪なしではとても登れないところでした。
けれど、…見えるんですよ。目と鼻の先に、なだらかな雪渓とその終わりが。山頂も近くにあり、逆に振り返ると4時間かけてひたすら登ってきた雪渓が延々と続き、もはや果ては見えない…。
さらに、名古屋から登山口まで片道4時間かけて運転してきたこと、2年前にも登り損ねたこと。
コンコルド効果――それまでに掛けた時間や費用が膨大であるがゆえに撤退が決められずさらに損失が増える――。サンクコスト…既に支払ったコストは未来には何の影響も与えず、それゆえ判断はこれまで支払ったものではなく、未来の状況だけを見て決めるべきであると。
分かってるんです。でも青空に浮かぶ山頂を見て、それでも決断できなかった。
足を複数回蹴り込んで階段を作り登るという、創意工夫を発揮してしまって、雪渓を通過できてしまいました。
#滑落の瞬間のこと
山頂を堪能して、いよいよ大雪渓へ戻ってきたところ。上端はなだらかなですが、少し進むと最大の急斜面の箇所。
6爪アイゼンでは側面を斜面に向けても3つしか掛からず制動力も弱い。仕方なく、ポールでバランスを取りつつ、踵を使って斜面を削りつつ段を作り、一歩ずつ静止してから次の足を出す作戦に。これなら跡に残るのは階段状の踏み跡なので、登ってくる人の迷惑にもならない筈。雪質が柔らかいうちはこの作戦は有効でした。
風向きが変わったのは、硬質化した氷に出くわした時。一瞬踵が弾かれて、そのあと氷が崩れて足場に変わる。嫌な予感がしました。これ弾かれたっきりになるとどうなるのか。
そんなことを思っていた瞬間、まさにその通りのことが起きて転倒。転倒した先は氷の急斜面、静止なんかできません。そのままズルズルと止まらず進み続けます。
まずいと思い、そのまま腹臥位の制動姿勢へ移行。これなら加速する前に、突き立てたピッケルとアイゼンの前爪で制動できます。そう、普段なら。
持っているのはただのポール、そしてつま先はツルンツルンの6爪アイゼン。靴の爪先とポールの凸凹を斜面に強く押し当ててなんとか減速を得、一時は静止仕掛けはするのですが…。
ああ、やっと止まったと思い、完全静止を得ようとした瞬間、わずかに斜面が強まったらしく再び加速。今度はあれよあれよというまに自動車ほどの速度まで加速。ある者で制動を得られそうなものはアイゼンの踵のみ。滑走しながら再び背臥位(仰向け)に戻り、踵を突き立てようと試みるも弾かれる。そんな間に、目の前に大岩が迫ってきて、「死んだかなコレ」と一瞬頭をよぎりました。
しかしそこで生への執念が発揮。幸い足が下向きの姿勢を保てていたので、一か八か衝突の瞬間に衝撃を足で逃がしてみる。あまりにも一瞬だったので、遅れて右足だけに負荷がきたので、右足だけがうまく引き受けてくれたのだと知る。そのまま弾かれて頭から茂みのようなところに突っ込んで静止。首をひどく圧迫されたが、むち打ち程度で済んだ。
上から、ダイジョウブー!?と片言の声が掛かる。謎の外国人に助けていただいた。
全身検索。首痛い。右足首痛い。腹は擦り傷だらけ。けど腕は折れていないし、胸郭や体幹に明らかな異常なし。
ダイジョウブー!!と声を返す。途中で落とした防止も拾ってきてくれた。本当に感謝。彼を巻き添えにしなくて本当に良かった。
ひと息ついて、足をテーピングして(この時点では折れてるとは思ってない)、ポールで支えながらえっちらおっちらと雪渓を降りていきました。
言うは易しですが、まだまた傾斜はあり、次転んだら多分受け身も取れず、命がけ。残りのコースタイム3時間を9時間かけて、からがら雪渓を抜け、駐車場までたどり着き、そのまま1時間ほど気絶するように寝ていました。
あとはまあ、帰りのドラッグストアでエアサロンパスとか買って患部に吹き付けたりしながら、なんとか生きて帰ってきました。
朝になっても足の腫れ方がおかしいので明朝近くの救急を受診すると、しっかり折れてました。
固定してもらって、そのままお仕事へ。なんとか休まずに済みました。社畜の鑑。
色々反省点の多かった山行で、特に事前調査はしていたのだけれど、甘かった。撤退の判断ができるつもりでいたけど、目の前に餌をちらつかせられると、甘かった。
未熟であることを再認識して、いろいろな方にご迷惑をお掛けしたことを猛省しながら、晴天の土曜日にベッドの上でべそをかきながら記事を書きます。
とにかくも、誰も巻き込まず、そして生きて帰ってこられたことが幸運でした。
ここまで長文にお付き合いくださりありがとうございました。私の恥が誰かの役に立てれば幸いです。
あと、多分もう少し本格的な夏になって雪渓上部が融ければ、装備ももう少し軽装でも良いかとも思います。少しでも迷ったら、しっかり装備の方を選ぶようにしてください。
それではどうかお気を付けて、よい山旅を。
ホンマに気をつけてくだされや🥰
生きてたので儲けものです👌
気をつけます!🙌💦
痛みは大丈夫ですか?
なかなか撤退できない
お気持ちよく分かります
貴重なお話
ありがとうございました
お大事になさってください
ありがとうございます。
痛みは大丈夫ですが、ギプスは大変不便ですね。経験しないことに越したことはありません(笑)
僕の失敗が誰かの成功の糧になれば幸いです。
たぶん同じ状況で滑落し亡くなったものと思います。
SNSで簡単に情報発信される今の時代はそれを鵜呑みにした初心者でもたいていの山には登れてしまう。
でもたまたま登れたとは思わずまた簡単にSNSで「初心者でもチェンスパで余裕でした」とか「どやっ!」みたいな発信をしてしまう…。
実は昨年の同じ日に私は1泊で白馬三山縦走をしています。同行者には「アイゼン、ピッケルは必携」と言って登りましたが雪渓を登ってるとチェンスパ、軽アイゼンで登ってる人が多いこと多いこと…。
流行のUL化の影響も多分にあると思いますがこの変な流れを元に戻すためにも、ふくろう伯爵さんのような体験記事がもっと多くの人目に触れることを願います。
ありがとうございます。僕がマヌケした経験ではありますが、ただの個人の反省ではなく、それが多少でも誰かのためになれば幸いです。このようなコメントが頂けて、恥をさらした甲斐があったと思うとともに、事故が絶えないことに心痛みます。どうかRUMIX18さんも、この記事を見てくださった皆さんも、十分な準備と安全な登山をなさってください。
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