滑落遭難死のリスクとは何かを考えさせられた、西穂高から奥穂高縦走。



- GPS
- 50:51
- 距離
- 28.3km
- 登り
- 3,480m
- 下り
- 3,459m
コースタイム
- 山行
- 4:27
- 休憩
- 0:19
- 合計
- 4:46
- 山行
- 9:22
- 休憩
- 1:09
- 合計
- 10:31
天候 | 晴れ、お昼前からガス |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2014年09月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
西穂高岳〜奥穂高岳の縦走ルートはそれまでのルートとは一線を画します。 クライミングに自信のある方で、かつ命の保証がないことに覚悟ができている、という場合以外は迷わず止めておきましょう。もっと行くべきところはこの日本にもまだまだたくさんあります。 |
写真
感想
同じ山岳会の気心知れたRさんが、西穂〜奥穂を単独で縦走されるという。さすがに単独は危険なのですが、誰も行こうとしない。という訳で穂高連峰未体験の私が同行させていただくことになりました。
もともとはお盆休みだったのですが、天候が悪いため中止になり、この三連休にチャンスが巡ってきました。混雑は覚悟の上です。
さて前夜入りした夜23:30、すでに無料駐車場は満車。なんとか鍋平の方の空きスペースに泊めて、車中泊。翌朝はロープウェイが動き出すまでゆっくりできます。
ロープウェイは8:30の始発の前に臨時便が出た模様。9:00の便で行きます。
終点から西穂山荘までは1時間少々の歩き、まだ10:30で今から飲んだくれると明日の山行に影響するので、そのまま槍見台まで歩くことにします。
槍見台ではガスが出始め、槍の見えない槍見台となりました。
そのまま引き返し、山荘に戻ったのがちょうど13:00で宿泊受付が始まったところでした。並ぶ、並ぶ・・・で部屋「西穂高3」の出入り口付近には明日のジャンダルムアタック3組6人が2枚の布団で一夜を共にします。
前夜は車中泊ということもあり、昼寝、16:30からの夕食後も少しビールを飲んでそのまま寝ました。狭いながらもよく寝ました。
翌朝は3:00起き、別のアタック隊は涸沢まで行くらしく2:00起きでもういませんでした。トイレを済ませて、3:30には出発。朝ご飯は後で食べることにします。
暗闇の中ヘッデン点けてまずは西穂独標へ。最後のところで少しスリリングな岩場ですが、まだ序の口。さらにそのまま西穂山頂に向かいます。
これって一般登山者にはハードだなぁと思いながら、岩稜帯を通って西穂山頂に。ここでヘッデンも外します。
さてここからは一般ルートではなくなります。ルートも見るからに、単なる岩稜帯に時々ペンキマークがある程度で、想像以上に険しいところだという印象でした。もっともこれもまだ序の口です。
距離的には西穂山荘から西穂高岳で、奥穂までの半分に相当するのですが、実際にはここからが猛烈に時間がかかる「半分」となります。
まずは間ノ岳を目指します。岩稜帯の稜線歩きが中心ですが、垂直の岩場に鎖、あるいは単なる垂直の岩場、と徐々にレベルアップしてきます。
山と高原地図には、鎖場についての記載が何点かありますが、実際には鎖のないほぼ垂直の岩稜地帯が多く、「何カ所か鎖場をクリアすれば大丈夫」というものではなく、常に滑落のリスクを背負って、緊張と恐怖感の連続となります。精神衛生上非常によろしくないです。高所恐怖症の人は絶対に入ってはいけません。
天狗岳(天狗岩、天狗の頭)へは逆層スラブに鎖がぶらさがっているところがありますが、これは垂直ではないのでまだ楽な方です。もちろん失敗は許されませんが。
天狗からの下降もかなりのもので、一つ一つ確実に足場と手のホールドを確認しながら下りないといけません。
天狗を越えるとジャンダルムが見えてきます。ジャンダルムのピークは通過しなくてもいいのですが、せっかくなので登ることにします。西側に黄色いペンキマークがありますから、そちらから岩場を登ります。ルートが分かりにくく、間違えると大変な目に遭うので慎重にルートを選んでください。登りはまだいいのですが、下りは同じところをそのまま逆に下ります。その下はスッパリ切れ落ちているのは相変わらずで、ここの下りは一二を争うくらいの恐怖でした。
下り終えると右手に奥穂へのルートがあります。岩場をへつって横切りますが、これもまた鎖もなくバランスを崩したらもう終わり。実際この三連休で滑落された方は、ザックにかけていた服が岩に引っかかってバランスを崩したのが原因だそうです。バランストレーニングはとても重要です。
ジャンダルムの次は、ロバの耳のコルへの下降ですが、これもまた非常に難しい。ほぼ垂直の岩場をそろりそろりと下降します。もちろんロバの耳の通過も垂直に登ってはへつるようなトラバース歩きと、緊張感の連続で精神的にかなりハードになってきます。精神力、体力が必要です。
ロバの耳を越えるといよいよラスト、馬の背が見えてきます。両側がスッパリ切れ落ちた稜線の岩稜地帯を四つん這いになって進みます。足元以外の下は見てはいけません。
ここをクリアすればあとは奥穂までもう少し。奥穂山頂から先は一般道、本当に安心して歩けます。もう命をかけた緊張感から解放されて、やれやれという感じに満たされます。
長時間行動にもかかわらず、トイレに適した場所はほとんどありません。よく見ると岩陰で用を足した形跡があるので、トイレに近い方はまめに確認しておきましょう。もしお腹の調子が悪いと悲惨で、前日のお腹の調子も万全を期する必要があります。私の場合は緊張で小キジすら行かずに終えましたが・・・。
翌朝は白出沢からの下山、こちらは単にガレているだけで、途中の沢沿いで崖っぷちを歩く緊張を強いられる場面がありますが、慎重に歩けば問題ありません。何よりせいぜい数分の話です。
この三連休で、穂高連峰で滑落遭難が相次ぎました。すべてお亡くなりになられています。ヘルメットは必携ですが、滑落して数10mも空中から岩場に落ちて直撃する衝撃ではヘルメットでもどうしようもありません。
クライミングではビレイするので滑落しても安全ですが、このルートはロープを出すにも時間がかかって周囲の迷惑になるのでできないですし、やったとしても途中で暗くなってビバークする羽目になりそうです。
小雨に降られただけでもリスクは一気に高まります。強風も極めて危険、ましてや大雨や雷雨などに遭えばそれはほぼ死を意味することになるでしょう。
つまり本気で命の保証のないことを理解した人たちだけが入って行ける場所なのだと思います。
もしクライミング経験あり、体力あり、という方からこのルートを案内して欲しいとお願いされても、正直なところお断りすると思います。自らの命は自ら守れる、そういう人たちにだけ許された、極めてリスクの高いルートなのだと認識させられた山行になりました。
無事に歩き通したからと言って、達成感もないですし、自慢する気もありません。運が悪くなかったから大丈夫だっただけなんです。
とは言えこういう機会でもない限りは絶対に行かなかったであろうこのルート、今回行けたことは大変貴重な経験でもあり、今後の色々な場面で役立つことになるだろうと確信しています。
オマケ1
今回は沢靴(アプローチシューズとしても使えるラバーソールのもの)、沢スパッツで臨みました。グリップ、膝や脛の保護にはとても効果的でした。唯一の欠点は、冷えると足先が冷たいこと。沢靴に防寒性はありません。
オマケ2
手袋は薄手のゴムがついた作業用のグリップタイプが最適です。ピッタリフィット、軟らかいものがいいです。素手もいいのですが、痛いです。
オマケ3
少しでも死ぬリスクを減らすためのポイント
・登りで先行者がいる場合、下りで後続が来る場合は落石が落ちてくる可能性が高いと考えます。前後に他の人が来ないようなペースで歩けると安心です。
・下りでやばい浮き石があれば、安全なところに石を移動しましょう。後続者が落として自分に当たる可能性があります。
・落石を起こしそうになったら、その足で落ちそうな石を保持して落ちないように操作してください。日頃から大声で「ラクっ」と叫ぶ練習をしましょう。いざと言うときに声が出ないものです。
・「多分大丈夫かな」と楽観的に考えず、もしこのホールドが剥がれたら、足場が崩れ落ちたら、とリスクを考えながらできるだけ安全な行動しましょう。
コメント
この記録に関連する登山ルート

momochann様
素晴らしい山レコをありがとうございます。厳しいコースであることは知っていましたが、これほど厳しさの伝わる山レコは初めてでした。ありがとうございます。自分は絶対行くことはないと思います。
chii1961
chii1961さん
こんばんは。コメントありがとうございます。
そうですね、ネットで調べてもその危険性が伝わるものは少なく、それはきっと写真を撮っている余裕のある場所が少なく、危険であればあるほど写真が撮れないからだと思います。
オススメは穂高山荘から奥穂高岳山頂です。ここなら梯子、鎖も一カ所あり、ジャンダルムも眺められ、槍も近い、というロケーションを安全に満喫できると思います
momochann様
ご返信、ありがとうございます。
まだまだ初心者ですので、いつか涸沢から奥穂高に行ければいいなと思っています。
これからも山レコを楽しみにしています。
chii1961
momochannさん
緊張感が非常に伝わるレコありがとうございました。
もし機会があったら行ってみたいと思っていましたが・・・
やめときます
岩登りをやっておられる方でも「運が悪くなかったから大丈夫だっただけなんです」というコメントは非常に印象的です。むしろ岩登りをやっているから余計にわかるのでは。
これから秋の鈴鹿を中心に、無理のない登山を趣味の範囲で楽しみます
mugiさん
こんばんは。コメントありがとうございます。
道迷い遭難で捜索する場合、登山道から離れた斜面に入ったりするのですが、落石や滑落の危険、崖に出くわして進退窮まる・・・ということがしばしばあります。
そんな時はロープで安全を確保し、決して二次災害が発生しないようにするのですが、西穂〜奥穂のルートはその安全の確保を放棄するルートでした。
秋の鈴鹿は素敵ですよね。ゆったりと自然を満喫するのが山の魅力かと。
私もまたちょくちょくお邪魔させていただきます。
すごいの一言!
R先生もご一緒だったんですね。
恐ろしい所ですね、油断大敵、一瞬の油断が命とりですね。
こわいわぁ
ゴリさん
こんばんは。そうなんです。行って初めてその恐怖を知ったというか・・・岩場そのものは初級アルパインクライミングルート程度なのですが、それを確保なしで行くというのがポイントです。
運が悪くなくてよかったです。ほんとに。
はじめまして〜。
興味のあるところなのですが、立ち寄らせて頂きましたが・・・。読んでいて、胃がでんぐり返ししそうになってきました。行くも地獄、帰るも地獄。未熟者は絶対に踏み入れては行けませんね。よく伝わってきて良かったです。実際16日の新聞だったかな、そのルートでその3日間で3名亡くなったという新聞記事を読みましたし。臨場感溢れる記録です。ありがとうございました。これからも頑張って下さい。
skagitcastさん、コメントありがとうございます。
そうですね。天狗の頭あたりで雨に降られたら岩が濡れてスリル満点どころの騒ぎではありません。手も濡れて冷えることで力も入らなくなり、だんだんと気力も失われ、緊張の糸が切れてしまうでしょう。本当に行くも戻るも地獄でしょう。
クライミングではロープによる確保で安全を確保するのですが、西穂〜奥穂はノービレイで初級クライミングルートを登ったり下りたりする超スリリングな縦走路です。
確保するのが当たり前のクライミングをやっていると、この縦走路のノービレイな状態がとても異常なことに感じられた山行でした。
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