白馬大雪渓〜栂池 滑落事故目撃編


- GPS
- 32:00
- 距離
- 16.4km
- 登り
- 1,972m
- 下り
- 1,365m
コースタイム
06:15 白馬尻小屋 06:30
09:05 葱平(小雪渓トラバースポイント) 09:35
10:50 村営頂上宿舎
11:15 白馬山荘 13:45
14:00 白馬岳頂上 14:30
14:50 白馬山荘 04:00
04:15 白馬岳頂上 04:30
04:50 三国境
05:25 小蓮華山
06:30 白馬大池
07:00 白馬乗鞍頂上 07:10
07:45 天狗原中央
08:25 栂池ヒュッテ
09:10 栂池高原(麓)<タクシー>
09:40 猿倉P
天候 | 一日目:ピーカンのちガス〜曇、夜中雨 二日目:曇 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2014年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
タクシー 自家用車
タクシー:栂池高原〜猿倉 |
コース状況/ 危険箇所等 |
大雪渓:巨大落石多し。主に杓子岳(天狗菱)サイドから。 小雪渓:トラバースは山荘スタッフが7月1日に切ってくれており安全。 白馬乗鞍東面雪渓:下りは危険。アイゼン付けたほうがベター。 |
写真
感想
【プロローグ】
自由になった水&木の2日間をどう使うか?久しぶりにソコソコ体力を使う山行をソロでやろうと考えた。
最近は山ガールズらのガイドで簡単な山ばかり行っていたので、骨のある山行を躰が求めているのだろう。
標高差1500m以上の登りで、上はそれなりにPhotogenicな別世界、かつ道々オーバーヒートが大敵な私に合った涼しい山行・・・
ちょっと遠いが大雪渓で登る白馬しかあるまい。
何せ足の下は摂氏零度の雪渓。少し風が吹けば涼しさは言うことなし。
そうと決まれば火曜日夜に長野県警に電子登山届提出。
妻子に夜中に出ることを告げ、水曜日0:30頃出発。
【アプローチ】
遠い!高速安曇野IC出て一般道へ。途中右折すべきところを直進したら扇沢の方に行ってしまい戻ったり・・・結局猿倉着が5時過ぎ。
猿倉荘前じゃなく、ヘリポート手前のダートPに駐車。
ヘリコプターが荷揚げ準備中。飛び立つと車と私にビシバシと細かな砂が飛んでくる。構わず準備して出発。
林道を歩きながらヘリの往復回数数えていたら4回だった。
【大雪渓】
白馬尻小屋はすっかり組み上がっていて準備万端。
小屋前ベンチでスパッツとアイゼン装着。そこへ途中で追い抜かせてもらった御老体到着。
70歳過ぎだろうか、「あと何回登れることやら・・・」とおっしゃり、今回は「ウルップソウが咲いたみたいなんで」と一眼レフ持って登られるという。
栃木県から車でいらしたのだという。「凄いですね!」と言ったが、「高速網が良くなったから八ヶ岳行くのと同じようなもんですよ」と答えられる。
小屋の上から大雪渓突入。今回は12本刃持ってきたので非常に楽。
直径130cmぐらいの巨大な岩がゴロゴロしている。すべて天狗菱からの落石だろうか?
こんなものにぶちかまされたらと思うと身の毛がよだつ。
しかし不運なことに「無風」で暑い。
順調に高度稼いで大雪渓終了し、葱平の岩稜が露出した夏道に乗る。
アイゼンはここで外して急登の夏道を登る。
葱平最上部、小雪渓のトラバースポイントで9時過ぎなので朝食大休止。
トラバースは昨日小屋スタッフが切ってくれたということで、非常に歩きやすそう。
とはいえここは落ちると夏道岩稜部の横が一番傾斜がきつく止まらないので、めまい、立ちくらみなどでふらつくリスクも考え、再度アイゼン付けることは決定事項。
【滑落事故目撃】
諏訪SAで深夜買ったタラコのおにぎりを齧りつつ座る場所を探していると、どうしたことかトラバースを向こうから歩いてきた(つまり下り)男性が、
トラバース中央部から外れて、逆さにしたお椀状に傾斜がきつくなる下方に向かって歩き出しているではないか!
「危ないな〜、なんで切ってくれてあるトラバースこっちまで来ないんだろ」と思いつつ、座れる岩に視線を落とした瞬間のことだった。
「ザッ!」と音がして見上げると、小雪渓トラバースの下10mぐらいのところで例の男性ソロが転倒し、ものすごい勢いで滑落していき視界から消えていったではないか。
アイゼン&ピッケルは持っていて、うつ伏せでピッケル突き立てる停止挙動はとっていたようだが加速度が凄い。
丁度下から上がってきたkrisky 氏も滑落現場を見ていた。
葱平の岩稜部でアイゼン外すのが億劫に思い、岩稜終了部まで斜めにショートカットをしようとしたのではないだろうか?
krisky 氏とそんなことを話していたら、滑落事故直後に女性一人含む5人PTがトラバース渡りきってきた。
事情を話し、次のことを伝え、その後の処置を託した。
1.よくて擦り傷多数、露出している岩や落石で止まっている岩に直撃していると余談許さない。
2.勢いからして200m程度は落ちている可能性がある。
3.岩稜部夏道下って行く途中見ながら行って、本人動けないようなら119番通報お願いします。
時間的には丁度、栃木の御老体も滑落停止地点付近にいらっしゃるかもしれない。
【小雪渓〜県警ヘリ見守る】
おにぎりとクリームパンの朝食をとり、シャリバテ防止。
アイゼン再装着し、ストックしまって念のためピッケルにスイッチして小雪渓トラバースを渡った。
やはり自分から外れていかない限り、ルートを外すことはあり得ない。
10時頃、避難小屋の上の辺りで上空にヘリの音が。
白馬から旋回したり杓子から旋回したりしている。どうやら大雪渓に突入したがっているが、運悪くガスが巻いていて侵入を受け入れてくれない。
滑落した青年?の救助に向かうヘリに違いないので、なんとか成功を祈ってその場で見守っていた。
しかし、約30分の間に都合4回突入試みたものの接近不能で、ヘリは下に帰っていってしまった。
地上班が向かってくれているのだろう、と考えてあとは自分の登山に集中。
【稜線〜白馬頂上〜宿泊】
村営山荘下の木の階段のところでアイゼン外す。稜線はお花でいっぱい。ツクモも終わりかけだが頑張っている。お花の写真など撮りながら白馬山荘へ。
時刻は11時半頃。日帰り可能な時間だが、徹夜で前夜12時頃から長距離運転〜白馬登攀で疲れているので、無理して降りてもどこかに泊まらないと運転は無理だろう。
どうせ泊まるなら山上に泊まって、日没と日の出の情景を味わったほうがいいじゃないか・・・と、頭のなかで考えをまとめ、宿泊することにした。
本日の宿泊客はたったの5人!1200人宿泊できる日本一大きい山小屋にたったの5人。シーズン外したウィークデイの特権か。
夕食後外で景色の変化待っていると、日が沈む直前に、一瞬雲に裂け目ができて富山湾に沈む太陽を撮ることに成功。
山上に宿泊した者のみが体験できる神の時間。
朝食は5:30からだという。日の出に間に合わないので、早発ち用にお弁当作っれもらい就寝。
翌木曜日3時に起床し、お弁当を頂く。トイレなど済ませ、4時に小屋を出発。まだ外は暗い。
【燃える朝焼け〜稜線散歩〜ロープウエイ】
4時15分に白馬山頂着。ここで小蓮華の向こうの東の空が一部雲の裂け目ができていて、ピンク〜赤に染まりだしていた。
燃える朝焼けが撮りたいと思ったが、少し待つものの動きがないので三国境方面へ出発。
稜線を歩きながら、東の空を観察。途中雲の隙間から昇る太陽を撮ることが出来た。
白馬大池までは贅沢な稜線散歩。あれもこれもと撮影して大池へ。小屋に「休業中」の札あり。
滑ると、流氷漂う湖面に落ちる笑えないトラバースを経て、イワイワの乗鞍。頂上で小休止して、いよいよ本日の核心、乗鞍〜天狗原の雪渓降下。
一部氷結していて滑りやすいので、フィックスロープが付けられている。
「ここなら滑落しても怪我はないな」と考えノーアイゼンで。思いの外汗がでる。
一旦ロープ終了後、岩稜帯を巻いて次の大急斜面には、ロープが平行に2本垂らされている。
ノーアイゼンのブーツをロープに直角にして、エッジ立ててロープ踏んで降下。Wストックが3点確保の役に立つ。
汗だくで降下し、水芭蕉の賑やかな天狗原の木道へ。ここからの下りがなかなか長くて飽きてしまうが、ようやく栂池ロッジに到着。
ロープウェイ乗り場まで歩き、8:40発のに搭乗。下りの客は私一人。
同乗のスタッフのおねえさんに麓の到着時刻を聞き、携帯でタクシーを呼ぶ。
白馬山荘を出るときに、受付の横の壁にタクシー会社の電話番号が書いてあるポスターがあったので携帯に記憶させておいたのだ。
ロープウェイ〜ゴンドラリフトに乗り換え、麓まであと20分。ゴンドラ内で妻にメール。
A「無事下山。タクシーで車回収後、温泉、鰻、帰京。」
妻「了解、気をつけて帰ってきてね!」
【エピローグ:滑落者のその後】
麓の駅に付き、タクシー乗り場に歩いて行くと、
D「電話くれた方ですか?」
A「ええAです。」
D「どうぞこちらへ」
と一台のタクシーへ。
本来であれば、ここでレポは終わっても良いのだが、物語のハイライトはこの後訪れることとなる。
D「お客さん、梅雨の間のちょうどいい時に登れてよかったですね。」
A「ええ、ずっと天気悪くて山は無理そうだったですから。」
D「昨日乗せたお客さんもそう言ってました。運が良かった(*)って。」
A「そうそう、大雪渓の上で目の前で滑落事故起きたの見ちゃいました。」
D「そうですか、昨日のお客さんも落ちたって言ってましたよ。擦りむいちゃったって。結構落ちる人いるんですねえ。ははは。」
この時点で私は運転手の話す「昨日のお客さん」とは、栂池方面の何処か、おそらく乗鞍東面雪渓で小滑落した人なのだろうと理解していた。何故ならば、通常タクシー運転手は登山口ごとに担当が決まっていて、今日の運ちゃんが栂池担当だとばかり思い込んでいたからだ。
猿倉へ向かう道が一車線線の狭い林道に変わったところ辺りで切り出した。
A「僕が見た滑落事故はねえ、小雪渓のトラバースの真ん中からわざわざ急斜面側に歩き出して、そこで転倒して落ちていったんですよ。」「あの調子じゃあ200mぐらい落ちたんじゃないかな。命があればいいのだけれど。」
D「昨日乗せたお客さんも、大雪渓の上から落ちたって言ってましたよ。」
A「あれ?栂池から乗せたんじゃないの?」
D「いえいえ、昨日は猿倉に呼ばれて行ったんです。落ちちゃって傷だらけだからどこか病院連れて行ってくれって言われて、駅前のT診療所連れて行ったら、ちょうど昼時だったけれど先生がいてくれて診てもらえたんですよ。」
A「猿倉の迎車何時だったんですか?」
D「11時過ぎですね。」
A「滑落事故は9時過ぎなので、同一人物ですね!軽い外傷で済んだんだ!!よかったよかった!!!」
この人の良い運転手は、滑落事故当事者と目撃者の二人を一日違いで乗せたという、嘘のような体験をしたことになる。
猿倉で自分の車に乗り換え、運転手と笑顔で別れた。
温泉に向かい林道を下りながら思い返していた。
運転手が聞いた(*)「運が良かった」とは、天気のことでなく、軽傷で済んだ奇跡的幸運のことを指していたのではないだろうか。
細かいレポですね、尊敬します。
写真も載せていただきありがとうございます。
下りながら見たのですが滑落は100m足らずでした、岩に当たらなかったから軽症で済んだのでしょうね。
あそこを下りちゃいかんですよね、下りてみたくなる気もわからんでもないですが、滑ったら下が長い・・・転がり方によっちゃぁ・・・ねぇ・・
やはり小屋泊まりでしたか、羨ましいです。
次回は自分もお泊り山行にしようかな
こちらこそどうも。
>細かいレポですね
臨場感が残っている間に書きなぐっています。
あとで現場の空気感を思い出しやすいようにした忘備録です。
やがて動けなくなったときの為の記憶の羅針盤ですね。
>下りながら見たのですが滑落は100m足らずでした
葱平下端までは100m弱なのでしょうね。でもあそこの傾斜緩むポイントで止まれるとは限らないですから・・・彼は運が良くて良かったです。
>やはり小屋泊まりでしたか
山頂での日の入りと日の出を味わうのが私の登山なのです(笑)。
今度は小屋泊まりにして、めくるめく太陽と雲と風のスペクタクルを一眼レフに収めてくださいね。
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