イジェン山☆青い炎の噴火口へ


- GPS
- 05:53
- 距離
- 10.0km
- 登り
- 728m
- 下り
- 721m
コースタイム
- 山行
- 4:56
- 休憩
- 0:57
- 合計
- 5:53
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2019年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
整備された一般登山道 |
写真
感想
日本ではあまり知られていないようだが、この火山が世界に知られるのは世界最大の噴火口を有する火山というよりも噴火口から吹き上がる青い炎ゆえのことらしい。ネットで紹介されている写真の幽玄さには驚くばかりだ。青い炎の正体は噴火口から噴き上がるガスに含まれる高濃度の硫黄成分のためらしい。青い炎を見ることが出来るのは夜中だけなので、この炎を見ようと思うと真夜中にこの火山に登山をすることになる。登山口からは噴火口の縁までおよそ3km、さらに約1kmほど青い炎を見ることが出来る噴火口まで急斜面を下ることになるらしい。
東京の某大学を引退された教授からインドネシアはジャカルタで開催される国際フォーラムでの仕事のお誘い頂くのだが、ついでにイジェン山の青い炎のことを教えて頂く。ジャカルタでの仕事の後でこのイジェン山に一緒に出かけないかという訳である。私の登山の趣味を知っている教授は夜間登山を同伴させるに格好の相手だと思って頂いたようだ。しかし、羽田空港で教授と落ち合うと、噴火口の有毒ガスが強く、しばらく前から噴火口に下りることが規制されているらしいとの情報を聞き、すっかりテンションが下がるのだった。
ジャカルタでの仕事の翌日、ジャワ島の東端の街、Banyuwangiへと飛ぶ。赤道直下ではあるが、気温は意外と低く、風もあるせいか涼しく感じられる。ホテルに到着するとそれなりの数の外国人が泊まっているようだ。レストランのウエイトレスの女の子が云うには日本人は滅多に見かけないらしい。中国人も時折見かけるくらいで、ヨーロッパからの人達が圧倒的に多いとのこと。確かに聞こえてくるのはフランス語、ドイツ語、英語、オランダ語・・・意外にもオランダが多いのはかつての植民地だからであろう。ホテルの対岸には狭い海峡を挟んですぐ目の間にバリ島を望む。バリ島への観光のついでにフェリーで渡って来る人達も多いようだ。
登山口まで我々を運んでくれるガイドと運転手が深夜0時、夕食後に仮眠をとって予定の時間にホテルのフロントに出て行くと、ホテル中の宿泊客が起き出して集合しているようだ。よくよく考えると、このジャワ島の東端の辺鄙な街までわざわざ出かけてくるのも、このイジェン山の青い炎を見ること以外の目的はないだろう。
ホテルからおよそ1時間ほど、狭い山道を登ってゆく。途中で登山のためのもう一人のガイドが車に乗り込んでくる。登山口にたどり着くと、駐車場にはかなりの数の車が停められている。ガイドからはガスマスクを手渡される。ガスマスクといっても顔を覆うような本格的なものではなく、鼻を覆うだけの簡易なものだ。
登山口からは続々と人々が登り始めており、やはりそのほとんどが外国人のようだ。登山口の標高は既に1800m、気温は十分に寒い。歩き始めると、闇の中をどこまでもヘッドライトが延々と続いている。まるで富士山の登山のようだ。数百人の観光客が登っているようだ。平日なので登っているのは外国人ばかりであるが、週末にはインドネシアの人々も登ることになるので千人を超えることになると云う。
途中の中間地点では小さな山小屋がある。宿泊用の施設はなく、単に飲み物とインスタント・ヌードル、それからトイレがあるばかりの施設である。しかし数多くの登山者達がここで休憩をしておられる。
高度2200mのあたりで森林限界のようだ。いつしかあたりの霧が晴れ始める。どうやら雲の上に出たようだ。空には煌々と半月が輝いている。月明かりのお陰で足元は十分に明るく、ライトの明かりを必要としない。荒涼とした火山の斜面を緩やかに登ってゆく。
噴火口の底の方に向かって人々のライトの列が続いている。その先には猛烈な勢いで噴煙が上がっているのが見える。噴火口には降りることが出来ないとの話であったが、どうやら降りることが出来るようだ。ここからは登山ガイドのみが随行することになる。
下り始めると間もなく”miner, miner”と前の方から叫ぶ声が聞こえる。間もなく、天秤棒の両端に真っ黄色な硫黄の塊を積んで下から登ってくる鉱夫が暗闇の中から現われる。minerとは鉱夫を意味する英語である。彼らが一回に運ぶ硫黄の重さはおよそ90kg程らしい。一回の運搬で70,000ルピー、およそ600円に相当する賃金を稼ぐらしい。重労働で疲れきった鉱夫達には一様に表情はない。
やがてガイドがここがbluefireですと云う。ガイドが指差す方向にはもくもくと湧き上がる煙しか見えない。しかし噴煙が一瞬晴れたかと思うと、闇の中から突然、岩肌に青い焔が出現した。炎というよりも光を放つ液体が岩肌を流れているようにも見える。その青い炎は光の強いところは薄紫色を呈し、漆黒の岩肌に描かれた絵画のようでもあり、この世のものならざる幻想的な情景である。しかし、青い炎は瞬く間に濃厚なガスの中へと姿をくらます。青い焔はガスが途切れた瞬間のみにガスの切れ目から瞬間的に垣間見ることが出来るのみだ。
ガイドがここから先は危険ですと云う。しかし、見ると多くの人がより近くで青い焔を見ようと多くの人が下に降りている。私もガスマスクで鼻を覆い、炎に近づいてみることにしる。火の近くにたどり着くと”gas is coming!”と叫ぶ声が聞こえたかと思うと、濃厚なガスに取り囲まれる。ガスマスクの隙間から硫化水素のガスが鼻腔に入り込み、すぐにも咽せることになる。同時にガスによる刺激で目が痛む。碌な写真の一枚も撮れないうちに、すぐに撤退することになるのであった。
噴火口の縁まで再び急峻な斜面を登る。噴煙の中から時折、青い炎が姿を覗かせるのが上からでも見ることが出来るが、あたりが徐々に明るくなるにつれて、青い炎の光は急速に不明瞭となるのであった。
噴火口の縁までたどり着くと脚を痛めておられる教授は駐車場までタクシーと呼ばれる人力車で下ることを選ばれる。料金は30万ルピー・・・と聞くと法外な値段をふっかけられているようにも聞こえるが、実際には2400円ほどである。人力車で3kmほどの急な登山道を下るので、労働から考えると日本の感覚では相当に安いように思われる。
教授とお別れすると私はsunrise pointと呼ばれる噴火口の東側にある展望台を目指すことにする。気がつくとガイド二人が、教授の随行はいいのかと思ったが、登山口で車の運転手が出迎えてくれるように連絡してあるらしい。噴火口の縁を登って行くと、噴火口のあたりは瞬く間に雲に覆われて何も見えなくなった。
展望所にたどり着くと、間もなく東の雲海の上から太陽が登ってくる。やがて噴火口を見下ろすと雲が切れて、半径22kmあるとされる世界最大のカルデラ湖が姿を見せる。湖面の色はしばしばturquoise blueと表現されているが、鈍い青緑色の湖面がわずかに見えるばかりだ。噴火口の縁から底にかけて、斜面に刻み込まれた縞模様も雲の中から姿を現す。
下山は雲海の中へと下ってゆく。どうやらインドネシアでは雲海が広がる高さはほぼ一定なのだろう。雲の上と下では光景がまるで異なる。雲の下では途端に湿潤した熱帯雨林が広がっているのだった。
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