4泊5日・ヒグマに遭遇!大雪山〜トムラウシ・テント泊ソロ縦走
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コースタイム
day2 白雲岳避難小屋にて停滞
day3 0440白雲岳避難小屋-0510高根が原分岐-0800忠別岳-0940五色岳-1100化雲岳分岐-1210ヒサゴ沼キャンプ場
day4 0600ヒサゴ沼-0940トムラウシ1000-1030南沼-1100北沼-1215天沼-1310ヒサゴ沼(ピストン)
day5 0650ヒサゴ沼-0750化雲岳-1110第1公園-1250滝見台-1320天人峡温泉
天候 | day1 曇り後晴れ day2 暴風雨 day3 晴れ day4 曇りのち晴れ day5 曇りのち晴れ ※梅雨前線が上がって来ており、夜間は毎晩激しく雨が降りました |
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過去天気図(気象庁) | 2011年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
バス
ケーブルカー(ロープウェイ/リフト)
【復路】天人峡温泉〜旭岳ロープウェイ経由、旭川駅まではバスにて2時間弱。1日2本、1180円 *7/15〜はトムラウシ温泉発着のバスが出るので、天人峡を通るバスはなくなるようです |
コース状況/ 危険箇所等 |
例年より残雪が多いようです。裏旭から間宮岳へ向かう道は雪渓歩きの上にガスで視界不良になると登山道が不明瞭になります。また化雲平のあたりでヒグマに遭遇しました。要注意。 ヒサゴ沼はアリ地獄のような窪地になっており、雪渓を降りて行きます。これまた避難小屋の位置がわかっていないと道迷いしそう。ヒサゴ沼からトムラウシまでの道にも雪渓を3回ぐらい渡りますが、雪渓の出口がわかりにくいので要注意。天人峡への下りは小化雲岳を巻く道がやはり雪でわかりにくいです。なお残雪機は雨と雪解けの水でV字溝のようなぬかるみを笹をかきわけつつ歩くため体力も気力も消耗します。 |
写真
感想
思えば自分が本格的に登山をはじめた2009年の夏。はじめての縦走は後立山4泊5日小屋泊まりでソロだった。この年は梅雨明けがはっきりせず毎日雨に降られ、特に不帰ノ嶮〜白馬岳では低体温症になりかけた。同じ頃、あのトムラウシ事件で8人の凍死者が出て世間は大騒ぎになっており、「北海道にはそんな難しい山があるのか」「体力をつけたらいつかは自分も行けるようになるのかな」と漠然と思った。2010年の夏は雪渓歩きと長時間行動そしてボッカトレーニングを目標に、立山・剱〜奥黒部を自炊しながら6泊7日小屋泊まりで歩いた。そして2011年、自分の中では満を持しての大雪山系テント泊ソロ縦走の夏を迎えた。
【day1】旭岳ロープウェイ姿見の池駅-旭岳-間宮岳-北海岳-白雲岳キャンプ場
旭川で1日休んで天気の様子を見たけど、向こう3-4日の予報は絶望的に傘マーク。中でも3日目が一番悪いみたいなのでどうにも縦走プランが立てにくい。どうする?今回は諦めて大人しくキャンプ&カヤックでもやる?そんで天候の落ち着く秋にリベンジってのもあり?金曜日一晩悩んだ末、土曜日の朝雨が降ってないのを見て決めた。「とりあえず旭岳まで行ってみよう」だって街にいてあと5日も何する?そうと決まればパッキング。前回の十勝連峰で余計な荷を持ち過ぎたと思ったので、徹底的に食料と衣類を絞り、体重計を借りて計ったら15kg。予備日1日入れて5日分のテン泊荷物としては軽い方かな?
土曜日だったので仕事休みのkei君&shihoさんにホテルのビュッフェのような豪華朝食をごちそうになり、車で旭岳ロープウェイ駅まで送ってもらう。「上がってみてダメそうだったらすぐ下山するし行けそうだったら水曜日の夜7時には戻るから」といってお別れ。2人は旭岳温泉の湯元、湧駒荘で入浴していくという。11時をとっくにまわっていたのでロープウェイには私以外観光客しかいなかった。
姿見の池駅でロープウェイを降りると、雨は降っていないもののガスガスで何も見えない。一昨年の扇沢も去年の室堂もこうだった、やっぱり私は雨女か。。。降られることを覚悟してゴアのJKとゲイターをつけて歩き出すが、すぐに蒸れてきたので脱いで半袖1枚になる。そして旭岳頂上までの2時間いっさい眺望なし、岩ばかりで花もナシ。。。こんな日に山登りしてると、自分でも何やってんだろと思う。さてこの後どうしたものか。とりあえずおにぎり弁当を広げつつ考える。オプション①黒岳まで縦走し層雲峡に下山、翌日天気をみて銀泉台から上がる②白雲避難小屋まで歩いて一発逆転勝負を狙う③このままピストンで引き返すーーーん、まず③はないな。①はまたロープウェイ代とバス代がかかるから停滞する覚悟なら②かな。そうときまったらぐずぐずしてる時間はなく、とっとと裏旭の広大な雪渓を下りなくてはいかん。このあたりはガスっていると道迷いしがちだというので慎重にいく。視界の悪い中何とか下りきった所で、前から団体さんが。そして先頭を歩いているのは、なんと白銀荘でご一緒した『沈まぬ太陽』のガイドさん!白雲まで行くというと、「うーん、結構いい時間だよね。裏旭のテン場はどう?1張りあったよ」確かにテン場はすぐそこだけど、近くに避難小屋ないし、暴風雨になったときそれこそ逃げ場がないし。「まあ暗くなる前には着くでしょう、いざとなればビバークします」といって別れた。
それから30分もしないうちに、どんどん雲が晴れて行ったんですねえ。お鉢めぐりは雨と強風にさらされる覚悟でいたのに、なんかまるで山の神さまがカーテンを引いてくれてるように自分の行く先が明るくなって、お鉢平から旭岳の裾野から前方の白雲岳まで、一気に見晴らせるようになった。わお。まさにカムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)だわ。半径5キロ以内誰もいないんじゃないかしら。子グマが相撲とってたりしそうな。白雲岳に近づくにつれていよいよ雪渓が氷河と呼ぶにふさわしく思えるような造形になってくる。何なのこれ。シベリアだかアラスカだか北極圏にでもワープしてしまったような迫力の景観に度肝を抜かれた。白雲岳分岐で小屋が見えるとホッとして、ピークを踏むより早く落ち着きたくなり、テニスコートぐらいありそうな広いテン場へ直行。水たまりを避けつつ先着ソロテント2つと離れて、朝起きた時に白雲岳を正面に見られるように長辺を山側にしてテントを張った(これが災難の元となることも知らずに)。夕方遅くなればなるほどどんどん晴れて来て、素晴らしい夕暮れ。張り切って水汲みに出て得意の麻婆茄子の夕食を支度していると、小屋の管理人さんが集金に来て「コロさんのお友達の横浜の山ガールさんですよね?」という。ちょっと待ってよ、誰コロさんて。本名を聞いて、やっとそれが去年秋田駒の八合目の小屋でご一緒した山ヤさんだと判明。そうそう、去年大雪山で小屋番をしてたことがあると言ってたので、今回出発の時に行ってきますメールしてあったんだ。それで情報が先回りしてたのか、いやはや参ったな。幕営料を払うと「キツネが徘徊していて食料ばかりか靴までくわえて行くんで、持ち物は全部テントの中に入れてください。あまり際キワに置くと破られるので気をつけて。風でテントごと飛ばされそうになったらまた相談に乗りますから」だって。不吉なこと言うなあ。食事が終わってまどろんでいると、男女8人ぐらいのパーティが到着。山岳会らしいダンロップの大きなテントを2つ張って、大きな声で楽しそうに料理している。どうやら八宝菜を野菜切る所からやっている模様。イカは一人2切れ、エビは3個ずつね、なんて配分まで聞こえて来たりしてちょっぴり羨ましく思いつつ、疲れていたのか星を見る前にあっという間に眠りについてしまった。
【day2】白雲岳避難小屋にて停滞
早朝4時すぎ、テントがバタバタいう音で目が覚めた。台風のような猛烈な雨と風。メッシュの通気窓から時折水滴が飛んでくる。ううう、やっぱり雨か、停滞決定だなこりゃ。まだ眠いのでもう一度シュラフに潜り込む。そして5時を回った頃。テントが揺れてる!どうやら山から吹き下ろしてくる風をまともに受けていくつかペグが飛んでしまったらしく、テントが今にも飛ばされそうになっているではないか。慌てて外に出てペグを打ち直すも、テントが破れるのは時間の問題のように思えた。落ち着け。とりあえず中に入って、パッキング開始。さて風が息継ぎするところを見計らってまず荷物を避難させようかと思っていたら、管理人さんが来た。「大丈夫ですか?テント壊れちゃうから、ひとまず潰して小屋に避難して来たらどうですか?」「ありがとうございます、そのつもりで荷物つくってました」手慣れた様子でささっとテントをたたむのを手伝ってくれ、「昨夜は寝られましたか?」と笑顔で聞いてくれる。「それが朝までぐっすりでした」というと「それは良かった。よくがんばりましたよね。テントも壊れてないし万々歳じゃないすか」だって。頼もしいなあ、岳のサンポさんみたい。
小屋の中には足の踏み場もないぐらいギッシリ人が泊まっており、濡れそぼった私は居場所がなく肩身の狭い思いをしていたら、「下山しますか?それとも泊まる?もう少ししたら団体さんが出発するから、そうしたら2階にだいぶ余裕があるから上がってくるといいですよ」と管理人さん。あまりの感じの良さに小屋での停滞即決でしょ。避難小屋とはいえ人が常駐している小屋はいいですな。恐る恐る2階に上がると以外とカラっと乾いて掃除もゆきとどいているし、なんとライブラリまである!隅っこの方のソロの女性の隣にスペースを確保すると、「もしかしてコロさんのお友達の横浜の方ですか?」と聞かれた。そういえば行ってきますメールの返信に、7月7日から九州出身の女性が大雪〜十勝大縦走3度目のリベンジ挑戦で入るから会うかもね、と書いてあったっけ。彼女は7日から入山するも体調が優れず停滞していたが、病院に行くため管理人さん付き添いのもとこれから下山するのだと言う。なんと残念なこと。その後だいぶ小屋が空いたので、「ここが一等地ですよ」という階段横の半個室っぽいスペースに移動し、着替えて濡れものを干してゆっくりコーヒーを入れて、本棚から『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』を持って来て読むことにした。
読書に飽きると隣近所の人とおしゃべり。すぐ隣の60代ぐらいの女性2名は名古屋からで、若い地元のガイドさんを雇って2週間ほど道内の山を登っているとか。なんたる大名山旅。トムラウシは5度目のチャレンジで、前回は私が呼んでいる本の遭難事件があった日にガイドの判断で7合目で引き返したんだって!今回トムラウシのピーク踏むとちょうど百名山完了だと言っていた。トイメンには30代半ばぐらいのカメラマン(イケメン)がいて、私がお昼にピーマンと焼き鮭のチャーハンとキュウリとトマトのサラダを作っていたら「生野菜いっぱいですごいですね」と感心された。なんでも10年前に大阪から東川町に移住して来たのだという。来る途中、東川町の道の駅に立ち寄ったのだけど、小さいながら活気の感じられる商店街があって「木工の町」「写真の町」として町おこしをしていて、また風景もどことなく白馬に似て開放感のあるいい感じの田舎だな、という印象を持ったという話をしたら、「そうですね、似てるかもしれない。僕も栂池に住んでたことがあるんです、スキー場で働いてまして」と同意してくれたのが嬉しかった。
夕方になって雨が上がり、晴れ間も見えたので、ここぞとばかりにテントを乾かすためテン場に張った。格好のヒマ潰しとばかりにバンダナ巻いたソロのおじさんが手伝ってくれた。どうやら昨日はそもそもの私の張り方がまずかったらしく、小屋の窓から皆で寄ってたかって噂されていたらしい。管理人さんの他小屋の主みたいな顔したおじさんが張り綱の使い方、ロープの結び方、ペグの止め方を指導してくれた。ふと脇を見ると、かなりビリビリに裂け目が入ってそれをまたガムテープで補修しているボロボロのテントがありビビる。どんだけサバイバーなんだよ。
【day3】白雲岳避難小屋-高根が原分岐-忠別岳-五色岳-化雲岳分岐-ヒサゴ沼キャンプ場
朝3時。カメラマンが支度をして出て行った。続いてみんな起きだす。昨日までの暴風雨が嘘のように晴れ上がった模様。だけど梅雨前線は停滞したままだし、いつ天気が崩れるかわかったもんじゃない。私もささっと朝食を取って4時半過ぎには出発した。
最初の3時間ぐらいは爽やかな夏の朝のお散歩。高根が原はアップダウンもなくゆったりとしたお花畑で、前にトムラウシ後に大雪山を背景に、構造土を見ながらのんびり楽しく歩ける。雪渓跡にはみずみずしいウルップソウやチングルマが、レキ地にはコマクサがびっしり。カメラ持ってたら前に進めないだろうな。やっぱりトムラウシはここが正面玄関なんだと思う。百名山ハンターならトムラウシ温泉短縮口ピストンが手っ取り早いだろうけど。サンショウウオ生息地というけどまだほとんど雪に埋もれている忠別沼で小休止して、忠別岳の登りにかかる。ガイドブックやネットの情報ではこのあたりのハイマツ漕ぎがすごくて顔面往復ビンタを食らうと書いてあったのだけど、去年枝払いされてスッキリ歩きやすい。しかし忠別岳のピークは天気が悪いと迷うだろうな。のっぺりしたピークには標識がなく三つ又に分かれているし、構造土の模様のせいで雨水の通り道も登山道に見えてしまう。今日は天気がいいので左手に忠別の小屋が見えているが、大きな雪渓の淵に追いやられるように建っている。まだ時間が早いからスルーしよう。行ったん下って登り返すと五色岳のピーク。と、前方から例のカメラマンが歩いてくる。早いな。化雲まで行ってもう撮影して来たのか。「熊はいましたか?」と聞くと、「この時期はまだ雪が多いからいないです、稜線に上がってくるのは8月ぐらいですよ」だって。科学的っぽい説明を聞いてなんとなくホッとする。ちなみにウェブで写真を公開しているのか聞くと、していないが絵はがきが天人峡や道の駅で売っているというので名前を聞いておいた。
そうして五色岳から背の高いハイマツの間を抜けて下りにさしかかったところで、前方右手100mの斜面に黒い物体発見。動いた、何かもぐもぐ食べてる、あ、ヒグマだ。。。目が合ったよどうしよう。秀岳荘の鈴を懸命に鳴らしてみる。一瞬動きが止まるけど、またモグモグ続行。よっぽどお腹がすいてるか食べてるものが美味しいんだろな。食べながらもコチラに絶えずチラチラ眼を飛ばしてくるので動くに動けず。変に刺激して寄って来られても困るけど、逃げようにも前がどんなふうに登山道がついてるかさっぱりわからない。ヒグマは孤独を好むから、ヒトを見ると接触を避けて立ち去ってくれるはずなんだけどなあ。ここはしばらくザックを置いて観察することにした。思えばこんな風にちょっと距離があるところから見られるのが理想だったでしょ。後でガイドさんに聞いた所によると、ハクサンボウフウの根っこを掘り返して食べてるらしい。草食系か。15分ぐらいガン飛ばしの攻防のあと、思い切ってザックからカラビナとステンレスマグを取り出してカンカンカン!とけたたましい音を出し鈴も鳴らして、熊さんには悪いけど退いてもらった。「ちっうっせーな」的な一瞥をくれて斜面の向こうに退避していく姿はどこか人間的な物腰を感じた。。。
急いでザックを背負って下りきると、雪渓に埋もれた木道があった。後を振り返りつつそそくさと渡り歩を進めると、なんともまあ美しいお花畑が地塘の間に広がる。まるで八甲田や八幡平でみた景色とそっくりだ。行く手には化雲岳だろうか、のっぺりした山が見える。ココまでくればあと雪渓を降りるだけで本日の目的地ヒサゴ沼に到着だ。良かった良かった。しばし太平天国を味わい撮影タイム。あ〜あ、カメラがあったら君たちをもっと綺麗に撮ってあげられるのになあ。
化雲岳の分岐でピークに登らず、真っ直ぐヒサゴ沼に降りることにした。『沈まぬ太陽』のガイドさん曰く、ヒサゴ沼の雪渓はガスがかかるとルート不明瞭でちょっとやっかいだと言っていたので、とにかく晴れている間に荷物を下ろす方が先だと思って。確かに、晴れていると上から見て左下に小屋の屋根が見えるけど、いったん雪渓を右に横切ってから左方面に下らないといけなくて、下り始めるとすぐブッシュで小屋も水面も見えなくなり、方向感覚を失いやすい。事実私が歩いてたのはちょうどお昼をまわったところだったけど、霧が出て一瞬で視界がなくなりちょっと怖かった。傾斜は白馬大雪渓ぐらいだからアイゼンなくても大丈夫だしグリセードできる人はなお楽しい斜度かも。とはいえスピード出しすぎるとそのまま水の中にスライダーだな。それにしても雪が水に浸かっている所は昔メンソールのたばこのCMで見たようなアイスブルーのクレバスになっていて、すごく綺麗で吸い込まれそうだ。
沼というよりは湖といえるぐらい立派な大きさで水も澄んできれいな水面のまわりをぐるりとすり鉢状に雪渓が取り囲み、半周分ぐらい木道がついていてほどなくして小屋に到着した。一番乗りだ。この小さい避難小屋はものすごく混むという話なので、雨になったときのことを考えて一応2階の片隅にスペースをもらっておくことにした。そしてテントだけ持って沼のほとりに別荘建設にいく。小屋の目の前には赤いダンロップの大きなテントが張ってあり、北大の生態学ラボと書いてあった。学生さんは騒がしそうなので、そこから一番遠くの個室っぽいサイトを選ぶ。今回は注意深く風向きに気をつけて、ペグをしっかり打った後大きめの石を乗せて固定した。うん、なかなか一等地ではないかな。テントを全開にしても小屋からはちょうど笹薮で隠れているし、他のテントからも笹薮で仕切られているのでプライバシー万全。すぐにゆったりした服に着替えて、滝のように流れている水場で手足と顔を洗っていたら、例の2人組の女性とガイドさんが到着。熊の一件を話したら、「やっぱり。私たちも大きな足跡を見たわ」と言っていた。その後バンダナのおじさん、続いて団体さんが到着。ガイドさん曰く私と同じ場所でエサを食べている熊を見たけど、集団を見て逃げて行ったとのこと。よっぽど気に入った場所なんだな。どうやら本日の客は全部で20人ほど、小さな小屋ではちょっとうるさそうなので2階の荷物を撤収してテントに落ち着いた。テン場は私ひとり。
夕方、食事の支度をしていると、奥の草地にエゾシカの親子がやってきて草を食んでいる。小さい子は私の存在が怖いようでビクビクして物陰に隠れている。親たちは時々顔を上げて私の方を見やるけれど悠然として優美だ。結局、日が暮れて白い月が出るまで、水を飲んだり草を食べたりして近くで遊んでいるのをずーっと見ていた。その間、姿は見えないけれどチュン、チュン、とナキウサギの声が響きわたっている。こんな経験、ケニア時代のテントサファリあるいはガラパゴス以来だよな。なんて素晴らしいキャンプ場なんだろう。。。。
【day4】ヒサゴ沼-トムラウシ-南沼-北沼-天沼-ヒサゴ沼
昨日はあんなに平和な夕暮れだったのに、夜半ごろからビックリするほどの雨風にまんじりともせず朝を迎え、どうなることやらと心配したが5時過ぎには風が収まった。一応出かける支度をして残りの荷物を小屋の2階に避難させる。バンダナのおじさんはあっさり停滞に決めた模様。あの女性2人のガイドさんは、天気予報では6時以降の降水確率10%で明日は回復するという。どうしようかな。今日1日停滞して明日ピストンでトムラウシやってそのまま一気に下山というのもできなくはないけど、キツい。だいたいこんな何もない小屋で停滞なんてしたくないし。ダメモトで今日アタックして、無理なら引き返せばいい。その方がチャンス2回で成功の確率も上がるはず。それに昨日とは別の雪渓を上がって稜線に出るのだけど、自分は方向がよくわからない。それならガイド付きのパーティのお尻にくっついて行った方が何かと得策、と考え、15人パーティに続いて6時過ぎに小屋を出発した。
中高年の団体さん10人は全員アイゼンとストックを持ち一列になり、ガイドとポーター合わせて4名はピッケルを持って脇を固めている。昨日の雪渓より傾斜がキツく、早朝のためやや雪が凍っているため、気を抜くと滑る。手袋とゲイターしか装備のない私は長靴で上がっているガイドさんの足元を見て真似して歩いていると、「スプーンカップの端に足をかけると滑らないですよ」と教えてくれた。雪渓を登りきりガラガラした岩場を通り抜けると稜線に出るのだが、案の定西から吹上げる風が強い。フリースのパーカの上にゴアのJKのフードを重ねてもうすら寒いのだから、雨が降ってたら厳しかっただろうな。それでも日本庭園と呼ばれるあたりで時々晴れ間ものぞくようになる。神様お願い、なんとか晴れさせてください。確かに池があって大きな岩が配置され、その間をうまいこと丸く刈られたようなハイマツが頭を揃え、チングルマをはじめとした白いお花が咲き乱れる様子は一流のセンスの庭師がつくったような景観。そして何度かひとりだったら迷い込みそうな雪渓を渡って、ようやく北沼への最後の登りに取り付いたところで団体さんが小休止を取ったので、ここからは自分のペースで行くことに決めた。やっぱりグループの後をついていくのは安全とはいえ自分にはストレスが大きい。
今日はお弁当と水以外ほとんど空身で来たので、激しい岩場をさくっと登りきると、一瞬だけおもわず声をあげたくなるような爽快な青空とクリアブルーの水をたたえた北沼と、今まで一回もそのピークを見せてくれなかったシャイなトムラウシの双耳峰が神々しく見えた!なんでか、一筋だけ涙がこぼれる。こうして近くで見ると、黒々した火山岩で魔物のようだな。最後の最後の急斜面を上がって、頂上についた。強い風でどんどんガスや雲が流れて行き、あっという間に視界が開けて、左手にはオプタテシケから美瑛岳、十勝岳へと続く美しい緑の稜線とトムラウシ公園から温泉へと下る登山道が、右手には大雪山の塊が見えた。ついに憧れの山に来れた。しかも眺望付きで。ふだんあまり山頂でゆっくりするタイプではないのに、この日は30分ぐらい強風のなか飽きもせず素晴らしい眺めを堪能した。
帰りはすっかり晴れ上がって暑いぐらいの日差しのなか、山の反対側にいったん南沼まで降りて、2年前の遭難者たちが使った巻き道ルートをたどることにした。南沼の美しいことといったら、さきほどの日本庭園を遥かに凌ぐと思われる。そしてここにキャンプ場があることが信じられない。お花が咲き乱れて綺麗ではあるけれど、いったん天気が荒れだしたらあっという間にテントは牙をむかれてしまうだろうに。そしてトイレもないのに、人間のカラダから出るものはどこへ行くのかしら。別天地ではあるけれど、泊まっては行けない場所な気がした。そこから北沼へのトラバースルートも氷河公園と呼びたくなるような美しいアイスブルーの雪渓が沼にそそぐ所で、思わず腰を下ろしてお弁当をひろげた。天気さえ良ければ、本当に汚れがなく平和な天国みたいなところなんだがなあ。
いつもは来たのと同じ道を辿るピストンは退屈に感じるけれど、天気ががらっと変わったので往路とは全く印象が違って、まるで初めて来る道を歩いたように岩場で少し登山道からはずれてしまった。でもそのおかげで、一瞬走り去る茶色いナキウサギを見ることができた(ような気がする)。
ヒサゴ沼の上部の分岐まで戻ると、沼の向こうにニペソツ山がくっきり見えた。足掛け2年の目標をやり遂げて、嬉しい興奮が通り過ぎると、今度は心なしか脱力に変わって行くのを感じる。この次は何を目標にすればいいんだろうという思い。無性に甘いものが食べたくなり、テントに戻って甘いカフェオレを入れて甘いおやつをむさぼり、しばし昼寝した。
夕方、私のテントにお客さんが来た。あのバンダナを頭に巻いたおじさんだ。結局、9時頃晴れて来たのでトムラウシまでピストンしてきたのだという。始めは十勝岳まで行こうと思っていたけど、ヤブ漕ぎがキツいと聞いて、明日下山して知床に行こうかと思っているらしい。旅は道連れ、世は情け。「それなら私と天人峡に降りましょうよ、朝6時出発でどうですか?」と打診すると、待っていたように膝を打つ。「それじゃ、明日6時に」と小屋に戻って行った。
今夜は小屋ばかりかテント場も大盛況、皆さんさかんにテント交流やっている。私はまたひとりマイペースに最後の晩餐をバターチキンカレーで締めくくり、草地にシカが現れるのを待ったが、賑やかさを敬遠したのか、その晩はついに姿を見せなかった。
【day5】ヒサゴ沼-化雲岳-第1公園-滝見台-天人峡温泉
夜中また激しく雨が降った。朝、約束の6時が近くなっても弱まる気配なし。こりゃあ出発を遅らせないといけないかな、とのんびり支度をしていると、バンダナおじさんがやってきて、テントの撤収を手伝ってくれた。「私は明日の飛行機だから下りないわけにいかないけど、おじさんは日程に余裕があるんだから停滞したら?」なんとなく出たくなさそうな気配を感じてそう言ってみる。するとホッとしたように「そうさせてもらおうかな?約束したから荷物は一応まとめてあるんだけど。。。」という。天人峡もひどい道らしいので心細くはあるけれど、仕方がない。小屋の中で待機している私と同世代の5人パーティも下山か停滞かで迷っている模様。と、7時近くなって雨が止んだ。今しかない。最初の難関は雪渓を登りきることだけど、このチャンスを逃してはいけない、ってことでぐっしょり濡れて重くなった荷物をよっこいしょと背負って出発。
雪渓は下るより上る方が楽だと思っていたけれど、やっぱり荷物が重いとなかなか動きが鈍りますな。1時間ほどかけてようやく化雲岳のピークに辿りつく。先行する団体さんをここで追い抜き、ズンズン下って行く。十勝連峰でご一緒した神奈川のおじさんが、化雲岳から小化雲岳の間に野球場ぐらいの大きさのチングルマの大群落があって見応えがあるよ、と言ってたのを思い出した。ナルホド、確かに見渡す限りのお花畑だ。そこから沢を上るようにぬかるみの道を上って行き、大きな雪渓に行く手をはばまれた。どんよりと雲がかかっているため、景色で判断できないし、踏み跡なんか絶対わからない。さてどうしよう、と困っていたら、後から5人パーティがすごい早さで追いついて来て、自信たっぷりに雪渓を右に進んで行った。ガイドさんなのか一人だけ年輩のリーダーが先頭にいたので、道がわかっているなら付いて行こう、と後を追うと、ハイマツのブッシュに行く手を遮られて立ち止まっていた。あらら。やれやれ、こうなったらみんなで手分けして地図を取り出したり高い所に上ってみたりあちこち偵察隊を出したりして、ようやく雪渓を渡って岩を上った所にトレイルを見つけて、歩き始めた。それにしても足の速い人たちだな。プレッシャーになると嫌なので先に行ってもらうことにした。
だんだん高度を下げてくると、ハイマツから灌木が生い茂りそれこそ往復ビンタを食らうような狭くて蒸し暑い道になってくる。しかも足元はV字の谷になっていて、泥水が川を作っている。水に入らぬよう高巻きしようとすると、笹薮をワッサワッサ漕がないといけない。まあ道に迷う心配はないけど、これを登山道というのか北海道では。ヤブ漕ぎとどこが違うというのだ。あまりに不快なので歌うことにした。やりばのないストレスは80年代ヒットメドレーで解消だ!ってことで、1時間ほど歌謡曲やらアニメソングを歌った所で、少し開けたところに出た。ちょっとしたお花畑になっている。ここが第2公園とやらかな?小休止して、地図を取り出しイチジクやらプルーンやらデーツやらドライフルーツをもりもり口に放り込む。大丈夫、どんなに濡れても汚れても、下山したら温泉とビールとジンギスカンが私を待っているではないか、と気持ちを奮い立たせ、またヤブ漕ぎ&滝下りを続ける。『沈まぬ太陽』のガイドさんが言ってたっけ。天人峡の道はひどいけど、上りに比べたら下りはまだ許せるって。その通りだよな。私この道を逆走するなんて3万円、いや5万円積まれても嫌だ。だけどガイドさんは嫌な道でも案内しなくちゃいけないことも多々あるんだろうし、全く大変な仕事だよな〜。。。そのつらい道のりも、第2公園手前の木道が出てきてやっと終了。あああ、文明が確実に近づいている。第2公園はチングルマとエゾコザクラが白とピンクの絨毯をしきつめたような美しいところ。ここでおにぎり弁当を取り出し栄養補給。先行の5人組もどっかり腰を降ろしている。ここからはターボスイッチを入れたように、5人組を追い越し半ば走るように下山した。蒸し蒸しした樹林帯で暑いし、大木がゴロゴロ倒れていてくぐったり乗り越えたりでエネルギー搾り取られるけど、休憩したくても止まると蚊の襲撃にあうしで、一刻も早く下山するより解決がないから。滝見台についても有名な羽衣の滝をチラッと確認した程度で、一気に天人峡に降りた。
一番老舗(かなりしょぼい)の天人閣で立寄り入浴1000円はボッタクリだと思いつつも、こんな泥だらけで汚い登山者を観光客と一緒に入れてもらえるだけ有り難いと思うことにして、5日分の汗を流した。
温泉から出ても食堂がないのが本当に残念なのだけど、売店でビールを買って手持ちのミックスナッツとおにぎり弁当でお腹を見たし、すっかり晴れて来たのでグショグショに濡れたテントやら何やらを取り出して、河原横の空き地で乾かしながらバスを待った。するとバンダナのおじさんが下山して来た。私が出発して20分後ぐらいに後を追ったらしいのだけど、途中化雲岳のあたりで先行の団体さんの後をついていったら訳のわからない道に出てしまって1時間ぐらいロスしたのだという。何はともあれまずは温泉、それから一緒にバスで帰ろうということに。
結局バスで旭川まで出た後、おじさんにはライオンでジンギスカン食べ放題をおごってもらいました。いや〜、生ビールに4種の味のラムが柔らかくて美味しかった〜。お互い名前も聞かずにじゃあ!と別れてしまったけれど、こういうさっぱりしたところが山ヤさんのいいところだね。
ところで天人峡でバスを待っている時に、すごいおじいちゃんがパニアバッグ2つ自転車にぶらさげて背にはリュック、ハンドルには旗を掲げて坂道を上って来た。私のテントを見て、私もここらでテントを張らしてもらっていいですか?という。おじさん何処から来たの?年いくつ?と聞くと、「10日前に横浜市金沢区を出て来ました、昭和6年生まれのたったの80歳!」と元気よいお返事。大洗からフェリーで来てひとりで北海道を自転車であっちこっちまわるんだそうな。
ちょっぴり目標喪失気味だった私は、このおじさんの出現にとても励まされた。そうだ。世の中、私の倍生きてるおじいちゃんだって自分のレベルでのチャレンジを見つけてるじゃないか。何だか目の前の霧がぱ〜っと晴れていくような気がした、旅のしめくくりでありました。
この縦走記録も、その前に行かれた十勝などの縦走も、
贅沢で凄い山歩きですね。
二日目の暴風雨に避難小屋。
山の中のオアシスってところでしょうか?!
私もいつか機会あったら、同じルートを縦走してみたいと
思いました。
お疲れさまでした!
長い長いつぶやきのような山行記録を読んでくださりありがとうございました。
このコースは晴れてたら難しくもなんともないところが荒れると地獄になることをまざまざと見せつけられる所であり、山登りをするほうとしてはだからこそチャレンジを感じますよね。面白いのでぜひいつか行ってみてご自身で体験してください。
白雲の小屋は、避難小屋としては最高のもてなしを受けられるところだと思います。まさにオアシス。。。
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