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タラの木は立派な芽を伸ばすものほど、背丈が高くなり、幹も弾性が弱まり、太く堅くなります。フィールドでよく見かけるのは、無理に押し曲げようとして、折ってしまった幹や枝です。
残念なことに、林道沿いのタラの木などでは、始めからのこぎりなどを使って、根元から無残に切り倒されたタラの木にも出合います。
一方、コシアブラの場合は、南関東では分布域が限られており、雪国ほど生育密度が濃くなります。こちらは、若い木ではタラに比べてよりしなり易いことから、人為的に折られることは少ないようです。
しかし、背丈はタラ以上に育つため、高い位置の芽を摘もうとして幹を曲げて、折られているものも見られます。中には、販売目的などのために幹を切り落として摘まれる場合もあります。コシアブラの場合は、背丈が5mほどにまで育ち、枝が密生した木に生長するために、大量に採集される場合があります。
しかし、タラの木もコシアブラも、一番芽だけを丁寧に摘めば、時期遅れで2番芽が育ちます。こうして幹や枝そのものが保護されている限り、年々、分布も広げて、より大きな恵みを用意してくれます。
山菜は、本来、自然のもののおすそわけです。
自然の楽しみをみんなで長く体験するためにも、採集する場合のマナーを大事にして、広げていきたいと思っています。
その一番手っとり早い方法は、枝を痛めないように、手が届かない芽はそのままにしておく方法。
これは多くの登山者が、手が届く場所でもみんなが眺めて楽しめる位置にあるものはそのままにしておいたりして、実行しているように感じてきました。
タラの芽やコシアブラに出会う機会、若芽が育つのを間近に観察する機会は、大切です。
もう一つの方法は、枝を痛めないように、採集する方法。
タラやハリギリ(写真)は幹も枝も、鋭いトゲで覆われています。採集するのに私が利用してきたのは、細引きやシュリンゲをかけて、枝をしならせて採る方法です。
とくに幹は、1点ではなく複数のポイントに力を加えて、全体をたわませると、折れにくく、より柔軟になります。
シュリンゲは2本を高低2か所にかけて、木をよりやさしくたわませることができます。手で一か所に曲げの力をかけるよりも、やさしく力をかけられます。
また、この場合、枝や幹をたわませると、ある段階で折れる前に、曲げが効かなくなる感触がありますので、その手前で無理な場合はあきらめます。
だいたい幹や高さを観察しただけで、曲げても無理かどうか、判断できます。
曲げるときは、斜面では、自分の立ち位置を、できるだけ高い場所に置くのが、曲げの負荷を減らせます。
そのために、最初はシュリンゲを中段にかけて、斜面にそって自分の位置をやや上げながら、上部にセットしたシュリンゲに次に力を加える方法も使います。
2人で中段、上段を分担して行動すると、よりスムーズに進みます。
大きなタラの木は、4〜6mにまで育ちますから、急斜面を利用して、この方法でとりくまないと、先端には手が届きません。
いま述べた方法の応用が、専用のフックを使う方式です。
写真は、私が使用している2m、70センチの2つのフックです。
これはシュリンゲと違い、登山では持っていけません。
短い方はリュックと背中の間に差し入れて、目だ立ず携行できます。
このフックは、材料はジュラルミンで、長さ1m、直径1センチのもの。 東急ハンズで購入しました。軽量ですが、10数年もっています。
両端は半径4センチほどのカーブをつけて折り曲げています。
折り曲げには、鉄製の水道管を使い、ジュラルミンの棒を水道管に差し込んで、曲げる位置をずらせながら、なめらかなカーブをつくるように曲げました。
シュリンゲは、幹にかけた位置を自由に変えることはむずかしい。
また幹にシュリンゲを付けるのも、事後に外すのも、幹の根元に行かねばならず、急斜面や雪面(コシアブラの場合)では、それだけ苦労します。
フックは、その点、幹をたわませながら、別に用意したシュリンゲやもう一本のフックを使って、幹の上部もたわませることができ、それだけ木への負荷を減らしながら、スピーディーに採集ができます。
残雪期や急斜面でのコシアブラの採集などの場合は、体を余計に動かさず枝を引きつけて採集ができるため、効果が高いです。
このフックは、斜面で行動するときに、灌木などの根元に掛けて自分を確保したり、藪の根元を押し分けて、踏みわけ、通り抜けのルートを得る場合などにも使っています。
ここまで読んで、お付き合いいただいた方のなかには、そこまで用意するか、と思われた方もおいでと思います。
確かに、こんな用意をしている人は、多くはないでしょう。
フィールドで人に不合理に傷められたタラの木やコシアブラの木に出合えば、私の気持ちもわかってもらえるかもしれません。
それから、私にとっては、これはどなたでも本来そうなのですが、光きらめく春山の自然とその恵みに出会える機会は、人生のなかで実はそう多くはないのです。
ですから、心の準備も、撮影を含めた観察も、そして一部をおすそわけして味わうことも、私は大事にしたいのです。
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