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2011年10月18日 13:45登山風俗史と山道具全体に公開

昭和の登山風俗(昭和32年)

 昭和31年(1956)、日本山岳会のマナスル遠征隊が3度目の試みでマナスル初登頂に成功してから、昭和33年(1958)の京大学士山岳会のチョコリザ初登頂までの間、日本の登山隊の海外での活躍が続き、その都度大々的に報じられました。
それに影響されて、昭和32年頃から若い人達の間に急速な登山ブームが巻き起こりました。

そして山乞食のような弊衣破帽なバンカラスタイルから一転、ヨーロッパアルプススタイルが流行し始めます。
折りしも日本経済は朝鮮戦争の特需を契機に戦後を脱し、国産の山道具、山装束も市場に出てきます。
登山がブームになると、機を同じにしてにゲレンデスキーの流行にも火が点きます。

両肘にセーム革を着けた背広にチョッキとニッカーズボンの三つ揃えが流行し、市場にはザイルずれを防ぐと称して襟の着いたチョッキまで現れます。
上高地では、英ネルの白シャツにネクタイまで着けた登山者さえ見かけられました。
登山靴は足首部に折り返しの着いたナーゲルが主流で、折り返しを伸ばすと泥除けのスパッツになったのです。

登山人口は大幅に膨れ上がりましたが、ブームに乗って新たに参入した経済的に豊かな人が多かったのです。
当時、成金族という言葉が流行しますが、彼らは新品の山装束、山道具で旅費を惜しまず北アルプスに入って平易な縦走路を歩きました。
ブライヤーのパイプで煙草の煙を燻らせながら、格好良く歩く人も居ました。

その影響は従来の弊衣破帽の山乞食達にも波及し、まず手ぬぐいのネジリ鉢巻がチロル風やハンチング風の帽子に変わりました。
古いソフト帽を加工してチロル風にしたりする人も居ましたが、山装束の中では比較的安価な新品帽子を最初に替えた人が多かったのです。
背広とチョッキは父親の冬物スーツのお古を押入れの奥から引っ張り出して使うのが普通で、登山用に造られた三つ揃えの新品を着ている人は裕福な一部の人達でした。
ニッカズボンだけが踏襲されますが、ゲレンデスキー用のエラスチックズボンが普及すると、その便利さから登攀に使う人も多くなります。

一方、頑なに弊衣破帽を守る先輩も居て、精々鉢巻をハンチングに変えるだけで粋がりを続け、相変わらず下駄履きで上野駅に現れておりました。
この時代は、色々な登山風俗が混在していたのです。

それまで男ばかりだった山の中にも、若い女性が見られるようになります。
最近の山ガールブームと違う点は、若い女性ばかりで中年の年増や年配女性の姿が皆無だったことです。
ハイキングスタイルのスラックスに運動靴の女性と、ニッカーにナーゲル、山シャツの女性に二分されて、同じスタイルの男性群に混じっておりましたが、後者の体型や容貌、態度が何故か皆似通っていたのが印象に残っております。

登山者の集まる駅として国鉄の新宿駅がクローズアップし、夏の涸沢にはテント群が目立ち始めます。
輸入される山靴がゴム底のビブラムに代表される優れた素材ばかりになり、キャラバンシューズに代表される国産ゴム底靴も普及し始めます。

私は山歩きを始めてすぐに安物の国産ナーゲル靴に、ニッカーもしくはスキーズボンと父親のスーツのお古でしたし、当初からバンカラスタイルが苦手でしたから、その後も装束のスタイルに大きな変化はありませんでした。
チロルハットを買って、煙草がパイプに変わった位でしょうか。
しかし、ナーゲル靴はその破損を契機にゴム底靴に履き替えることになります。

私の登山風俗はその後、アメリカンアルピ二ズムの流入で登山スタイルと装束、更にアウトドア風俗と文化迄が大変化する昭和50年代前半までは、大きく変化することはありませんでした。 

この時代は社会人山岳会と大学山岳部の活動が目立ち、ルートの開発競争が盛んになり始めます。
昭和33年(1958)年、第2次RCCが各会の先輩達(私より齢若い先輩もおりました)によって設立されました。
同年、急増する部員の育成のため入山する大学山岳部の冬山遭難が相次ぎ、ジャーナリズムの批判を浴びました。
同年、人工登攀の専門誌「岩と雪」が創刊されます。 ainakaren

*「昭和の登山風俗(昭和28年)」 http://www.yamareco.com/modules/diary/8042-detail-25896
*「戦後登山ブームの夜明けとマナスル初登頂」 http://www.yamareco.com/modules/diary/8042-detail-42977
*「昭和の登山風俗(昭和36年)」 http://www.yamareco.com/modules/diary/8042-detail-95548
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コメント

RE: 昭和の登山風俗(昭和32年)
ainakarenさん、いつも楽しく読ませてもらっています、
キャラバンシューズは姉が亡くなって後片付けに行ったら、やはりもう2度と履く事がないのに残してありましたよ、
当時のキャバンシューズには底に滑り止めの金具が付いてあるのが有りましたね、
会の岩登りの練習で奥多摩の越沢パットレスに行った時に先輩の一人が珍しくキャラバンの多少破れたのを履いて来ましたよ、

昭和33年ですか個人的には想い出がある年です、何処かの本で読んだような気がしますが、
33年は、冬山の雪崩の遭難事故が、しかも大学山岳部の事故が多かったと読んだ記憶がありました、
早大から慶大、そして北大などだったような、まだ有ったかな!

本と言えば山渓や岳人は本棚から整理したつもりでしたが、隅に黄色に変色した薄い雑誌が有りました、

よく中を見たら復刻版ですが「岳人」の創刊号でした 
昭和22年5月と書いてありました、いつどこで買ったのか記憶がありません、
2011/10/18 15:54
RE: 昭和の登山風俗(昭和32年)
マナスル登山隊・・・

登頂記念切手が発売されました。

今でももっております。

衣装が今では考えられません。
2011/10/18 16:04
RE: 昭和の登山風俗(昭和32年)
ainakarenさん、コメント失礼します。

自分の目から見て、まるで歴史の教科書のようです。
知らない単語が目白押しです。
じっくり調べさせていただきます。
2011/10/18 19:48
昭和の登山風俗(昭和32年)・コメント深謝


naiden46さん、こんばんは。

前回の昭和28年頃の風俗から、今回は4年後位の昭和32年頃の風俗を思い出しながら書いてみました。
次回は昭和36年を中心に書いてみるつもりです。

年配の皆さんが懐かしい何かを思い出す契機になれば幸いです。
若い皆さんが昔の登山風俗を知って頂ければ更に嬉しいことです。ren

*追伸
キャラバンシューズの初期製品の滑り止め金具は、ナーゲルのトリコニー金具の名残だと推定します。
ゴムだけでは、最初は心配する人もいたのでしょうね。
2011/10/18 21:07
昭和の登山風俗(昭和32年)・コメント深謝2
suikou3さん、こんばんは。

もう半世紀以上前に出た切手ですね。
私も買いました。

今では値打ち物なのでしょう。

マナスルも3度目の正直で初登頂に成功でした。
失敗の時には控えめな報道でしたがこの成功で大々的な報道になり、後に続く遠征隊の力になり、好成績が続いたのです。

それが登山ブームの引き金になりました。ren
2011/10/18 21:20
昭和の登山風俗(昭和32年)・コメント深謝3
w-makotoさん、こんばんは。

今では履かれることのない登山靴の名称(ナーゲル)などいまでは知らない人も多いと思います。
ですが大抵は検索でしらべられるかと思います。

パイプの素材のバラ科の木の根(ブライヤー)などは知らない人も多いかも知れませんね。
メッセージでお訊ねくださればお答えしますよ。

私の場合は逆に最近の用語がわかりません。
先日、貴兄にお教えいただいた2CH用語も解りませんでした。
宜しければメッセージで教えて下さい。ren
2011/10/18 21:34
RE: 昭和の登山風俗(昭和32年)
ainakarenさん、こんばんわ。

元祖「山ガール」(?)のくだり、興味深く拝読致しました。
当時は、既婚女性に今のような自由(時間的、行動的)がなかったのだろうと想像します。
(だから若い女性のみだったのでしょうね)
日本女性登山家の草分け、田部井淳子さんや、今井通子さんが登山を始められたのはこの頃なんでしょうか?
(たぶんお二人は現在70歳前後)

当時のうら若き乙女たちが、今もどこかの山を登って
いらっしゃったらいいなー、と思いました。
2011/10/18 22:06
昭和の登山風俗(昭和32年)・コメント深謝4
ricalonさん、こんばんは。

今井さんのご年齢だと医大の筈ですから、この日記テーマの2,3年後に登り始めたのではと思います。
田部井さんの経歴は存じ上げませんが、多分同年輩だったですよね?

女性の年齢を推定してコメントに書くのはちょっと憚ります。
でも山菜取りのおば様方以外では、山登り女性の草分けに近いと思います。ren

*追伸
今井さんのご年齢を失礼ながら調べました。
医大山岳部での登山が始まりなら、現役で順調に入学してこの日記テーマの4,5年後になります。
少しお若かったので訂正します。
2011/10/18 22:27
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