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先日のフォトキナで開発発表されたオリンパスのOM-D E-M1 Mark II。その連写性能は2037万画素のAF/AE追従で18コマ/秒(AF固定なら60コマ/秒)とのこと。現在の一眼レフで最速を誇るEOS-1D X Mark IIの連写性能は2020万画素のAF/AE追従で14コマ/秒(AF固定のライブビューで16コマ/秒)ですから、数字の上だけならこれを超えたことになります。
しかし、この仕様には但し書きがつきます。曰く「メカシャッターでは10コマ/秒(AF固定で15コマ/秒)」。つまり、いわゆる「電子シャッター」で18コマ/秒ということです。電子シャッターには後述する「ローリングシャッター歪み(俗に言うこんにゃく現象)」というデメリットがあるので「おいおい大丈夫かよ…」と言いたくなりますが、これだけ自信満々に謳っているということは、それを克服しているのでしょうか…。半信半疑です。
レンズやセンサーならともかく、シャッターなんてどれでも同じ?いやいや、そんなことありません。
<シャッターの種類>
現在のデジカメで採用されているシャッターは大きく次の3種類に分類されます。
(1) フォーカルプレーンシャッター
(2) レンズシャッター
(3) 撮像素子電子式シャッター
(1)と(2)を機械式シャッター(メカニカルシャッター、メカシャッター)、(3)を電子式シャッター(電子シャッター)と言うこともあります。しかし、フィルムカメラ時代は電池を使わず駆動するシャッターを「機械式シャッター」、電子制御のシャッターを「電子式シャッター」と言っていました。ああ、ややこしい。
※ 「撮像素子電子式シャッター」は長ったらしいので、この日記では「電子シャッター」とします。
ミラーレスを含むレンズ交換式カメラの多くは(1)を採用していますが、(1)と(3)を併用している機種(ミラーレスでは最近これが増えています)、(3)だけの機種、(2)と(3)を併用している機種、(1)と(3)のハイブリッドである電子先幕シャッターが使える機種もあります。コンデジは(2)だったり、(3)だったり、(2)と(3)を併用していたりします。スマートフォンは(3)です。
<それぞれの特徴>
(1)はセンサーの前に設置された物理的な幕を動かすシャッターです。「焦点面(フォーカルプレーン)」にあるシャッターなので、こう呼ばれています。レンズ交換式カメラではセンサー(あるいはフィルム)の保護と一石二鳥なので、フィルム時代から現在に至るまでシャッターの王道となっています。
細かく言えば色々な方式がありますが、現在一般的なのは先幕と後幕という2種類の幕を縦方向に時間差で動かすことで露光時間を調整する方式です。まず先幕が開いて露光を開始し、続いて後幕が閉じて露光終了となります。
メリットとしては「(2)と異なり、絞りに関係なく1/8000秒といった高速シャッタースピードを実現できる」「(3)と比べて、動きのある被写体でも歪みにくい」という点が挙げられます。デメリットとしては「複雑で比較的大型の機構をカメラに組み込まなければならない」「シャッターショックによるブレのリスクがある」「ハイスピードシンクロを使わないとストロボ同調速度が比較的低速になる」という点があります。
フォーカルプレーンシャッターで1/8000秒といった高速シャッタースピードを設定した時、実際に1/8000秒でシャッターが開いて閉じているわけではありません。シャッターが走行する実際の速さを「幕速」といい、1/300秒前後の機種が多くなっています。
※ 正確な幕速はほとんど公表されていないので、仕様表の「ストロボ同調速度」からの推測です。幕速はストロボ同調速度より少し速いスピードになります。
では、幕速より速いシャッタースピードはどうやっているのかというと、先幕が開ききる前に後幕が動き出し、スリット状に上から下(或いは下から上)へ順次露光することで実現しています。幕速は一定ですが、スリットの幅を狭くすれば露光時間がそれだけ短くなる、という理屈です。ストロボの同調速度が幕速に左右されるのはこのためです。幕速よりも速いシャッタースピードの時にハイスピードシンクロ以外の設定でストロボを使うと、シャッターが開ききらずスリット露光の状態なのでケラレてしまいます(普通はそうならないようシャッタースピードが自動調整されます)。
※ 言葉だけの説明では分かりにくいかと思います…。キヤノンの子供向け解説ページが分かりやすいのでご参照ください↓
http://web.canon.jp/technology/kids/mystery/m_03_03.html
先にちょっと触れた「電子先幕シャッター」とは、このフォーカルプレーンシャッターの先幕を電子シャッターにおきかえたものです。先幕のシャッターショックを無くせるメリットがありますが、撮影条件によっては露出ムラが出たりすることもあります。
(2)はその名の通りレンズの中にシャッターが組み込まれていて、絞りと併用の場合もあります。レンズ一体型カメラだけでなく中判や大判でも採用されています。
メリットは「(1)と比べてシンプルで小型なシャッターにできる(ボディに組み込む必要がない)」「シャッターショックがほぼ無い」「ストロボと全速同調できる」という点。デメリットは「普通、シャッタースピードの上限が(1)に劣る」「絞り開放付近だと高速シャッタースピードにできない」という点があります。
レンズシャッターはレンズの光軸上を遮断するだけでいいので、センサーの大きさだけ動かなければならないフォーカルプレーンシャッターと比べて移動距離が短くて済みます。フォーカルプレーンシャッターのようなスリット状の露光は行わないのでストロボと全速同調可能です。
しかし、絞りによってシャッターの動く距離が異なってくる為、絞り開放付近ではシャッタースピードが制限されます。コンデジをお持ちの方はマニュアルモードで絞り開放にしてみてください。シャッタースピードが仕様の上限値まであげられなくなっていませんか?絞り開放の時ほど速いシャッタースピードが必要になるはずなのに…(このあたりの制限は仕様表に書かれていないことが多いです)
カメラの仕様表を見てもどのシャッターを使っているのかよく分からないことがありますが、実機で確認できます。コンデジでシャッターをきった時に「カチッ」と小さい機械的な音がするのはレンズシャッターです。正面からレンズをのぞき込みながらシャッターを切ってみてください。レンズシャッターなら、レンズの奥でシャッターが閉じているのが見えるはずです(超高速シャッタースピードだと自動的に電子シャッターに切り替わる機種もあります)。
(3)はセンサーのオンオフでシャッターの役割を置き換えたものです。メリットは「電子シャッターのみにした場合、シャッターユニットを無くしてボディを小型化できる」「シャッターショックが無く、無音撮影が可能」「レリーズタイムラグを短くできる」「1/16000秒より速い超高速シャッタースピードが可能」「メカニカルシャッターでは不可能な60コマ/秒といった超高速連写が可能」といった点。デメリットは「主に動きの速い被写体が歪む(ローリングシャッター歪み)」。
※いずれもCMOSセンサーの場合です。後述しますが、CCDセンサーでは事情が異なります。
一見メリットが多いようですが、今のところデメリットの歪みが大きすぎるため、CMOSセンサーで電子シャッターのみのデジカメはほとんどありません。しかし、それも技術の進歩によって克服することは可能だと思います。
<ローリングシャッター歪みとは何か?>
そもそも、なんでこんなことが起こるのかというと、現在のデジカメで主に使用されているCMOSセンサーの仕様に由来しています。一般的なCMOSセンサーで電子シャッターを採用した場合、全画素を一度に読み出すことができず、ライン毎の順次読み出しとなります(ローリングシャッター)。このため、画素の前半と後半で時間差が生じ、高速で横方向に動いている被写体を撮った場合等に歪んで写ってしまうのです(酷い場合は手ぶれでも歪んでしまう)。
ここで、「あれ?フォーカルプレーンシャッターも高速シャッタースピードだとスリット露光だから同じことじゃないの?」と思った人は鋭い!順次露光という点では同じなので、厳密に言うとフォーカルプレーンシャッターでもローリングシャッター歪みは発生しているのですが、幕速が充分に速いのであまり問題になりません。
また、「横方向に動いている被写体」と書きましたが、縦方向に順次露光しているためこういうことになります。これを逆手に取った対策があります。それは、縦構図で撮る(笑)。まぁ、それはそれで歪まない代わりに被写体が横に伸びたり縮んだりしてしまうのですが…。
<電子シャッターの読み出し速度>
では、フォーカルプレーンシャッターの幕速に相当する電子シャッターの読み出し速度はどのくらいなのでしょうか?どのメーカーも公表していないので正確なところはよく分かりませんが、電子シャッターのみのレンズ交換式カメラであるNikon 1 J5の仕様表にヒントがあります。
http://www.nikon-image.com/products/acil/lineup/j5/spec.html
フラッシュ同調シャッタースピードの項目を見てください。「X=1/60秒以下の低速シャッタースピードで同調 」とありますね。フォーカルプレーンシャッターの場合、この数値は幕速に近い数字です(実際にはもう少し速い)。電子シャッターでは若干事情が異なりますが、1/60秒より少し速い程度の読み出し速度であると思われます。
Nikon 1 J5は2081万画素でAF追従20コマ/秒、AF固定なら最高60コマ/秒の高速連写ができる機種です。画素数も連写性能もOM-D E-M1 Mark IIの電子シャッターと似たような感じなので、読み出し速度も同じくらいなのではないかとの推測もできます。
あまり断定的には言えませんが、今のところフォーカルプレーンシャッターの幕速と電子シャッターの読み出し速度には3〜4倍の開きがありそうです(画素数にもよるのでそう単純には言えませんが)。
<電子シャッターの未来>
問題解決のアプローチは主に二つあります。CMOSの全画素同時読み出しを可能にするか、ローリングシャッター歪みが問題にならないレベルまで読み出し速度を向上させるか。
全画素同時読み出し可能な電子シャッターは「グローバルシャッター」と呼ばれ、既に業務用ビデオカメラのCMOSセンサーでは実用化されてます。ただ、グローバルシャッターも万能ではなく、現時点では画質やノイズの点でローリングシャッターと比べて劣っています。これが一般向けのスチルカメラに採用されるようになるまでは、まだ時間がかかりそうです。
※ 余談ですが、CCDセンサーは全てグローバルシャッターです。原理上、ノイズの点でもCMOSに対してアドバンテージがあります。しかし、スミア(強い光源があると光の縦筋が出る)、データ転送が遅い(連写が遅い・フルHD動画が難しい)、消費電力が大きい、コストが高い、構造が複雑になる等の弱点があります。かつてはCCD=高級機、CMOS=安物という時代もありましたが、CMOSセンサーの性能が向上してきた今では立場が逆転し、CCDセンサーのデジカメは少数派となっています。
もう一つのアプローチは読み出し速度の向上ですが、こちらの方が早く実現されそうです。電子シャッターの読み出し速度がフォーカルプレーンシャッターの幕速に追いつき追い越した時、上位のレンズ交換式デジカメからメカニカルシャッターが消える日もくるのでしょう。
<デジカメファンは電子シャッターの夢を見るか?>
思えば、カメラの進化の過程で重要な部分が次々と電子的に置き換えられてきました。フィルムはセンサーに(デジタルカメラ)、レフレックスミラーとファインダーは液晶やEVFに(ミラーレス)。そして遂にシャッターが…。
以前はタイムラグや見えやすさの点でEVFは一眼レフの光学ファインダーに大きく劣っていましたが、今ではほとんど問題ないレベルにまでなってきました。一眼レフに比べて動体のAFに弱いと言われていたミラーレスも、像面位相差AFの進化によってその差は無くなりつつあります。
シャッターも同じような道を辿るのかもしれません。ミラーショックもシャッターショックもなくなれば、解像感向上の面では確かにメリットでしょうし、シャッター音をさせずに撮影出来るというのも撮影状況によってはメリットとなるでしょう。電子シャッターになればレリーズタイムラグも短縮されます。
一見、いいこと尽くめのようです。しかし、カメラからメカニカルな部分がどんどん失われていくのは少し寂しくもあります。シャッターボタンを押すと瞬時に絞りが動き、ミラーがはねあがり、シャッターが走行し、ミラーが戻る…。あの一連の動作と音がいつか無くなってしまうのでしょうか…。
dhumeさん こんばんは。
技術の進歩は我々の撮影を楽しませてくれますね。
AF/AE追従で18コマとは・・・・動画の世界ですね! まったく凄いものです。 2037万画素RAW+JPEGラージでどのぐらいの時間連続撮影が可能なのでしょうね?
1DX2の14コマ、レフ機ではそろそろ限界のコマ数になってきましたね。
私は三脚を使った風景撮りではほとんどミラーアップで電子先幕、リモコンを使っています。ブレを防ぐにはやはり有効ですね。露出ムラは気になった事はありません。
しかし、鳥の撮影などはあの連写の音はたまらない魅力です
これからの高画質カメラはミラーレスが主流になるのは間違えない事実とおもいますが、レフ機、メカニカルシャッターは少なくても私が写真に興味がある間は残って欲しいと願うばかりです。 おそらくレフ機はそれほど遠い先ではなくそんなの昔あったなぁ〜という時代が来るでしょうね。
私はEVFはまだもう少しとおもっています。 EVFの性能が格段に上がり、昔のF2みたいにファインダー交換式で光学ファインダーと両方使えるのが私は理想かなぁ とおもいます
kazuto645様、こんばんは。
いつも返信遅れてすみません…。
OM-D E-M1 Mark IIのバッファはどのくらいなんですかね〜。SDカードもUHS-IIじゃないとすぐにつまりそうです。
そうですね。ミラーがあるレフ機ではEOS-1D X Mark IIの14コマより上はさすがにもう難しいんじゃないかと思います。
電子先幕シャッター使われてますか。昼間は静音シャッター、夕焼け、星空、朝焼けではライブビュー+リモートレリーズをよく使っていましたが、電子先幕シャッターは使っていませんでした。EOS 5D Mark IVは3040万画素ですから、シャッターショックも考慮しないとダメでしょうか…。
シャッター音いいですよね!D5はさぞいい音がするんでしょうね…。
10年後には、一眼レフは今で言うフィルムカメラみたいな立場になっているかもしれませんね…キヤノンとニコンだけは作り続けてくれると信じたいですが。
最近いくつか試してみて、EVFもここまできたかと驚きました。数年前はラグひどくて解像度低くてブレブレで使い物にならなかったのに…。
dhumeさん こんにちは。
5D4を購入されたのですね!
それは星撮りが楽しみですね
高画素カメラはやはりブレ対策は必要ですね。 特に長いレンズは・・・
645もそうでしたが、5DsRもデリケートみたいです。
時代の流れには逆らえないですが、シャッター音も撮影の重要な要素ですね!
カワセミの撮影などシャッターの音を楽しんでつい押しすぎますw その場でいらない写真は削除していかないと家に帰ってからたいへんな事になります。
星空の撮影は単焦点レンズ一枚撮りではそろそろ限界が見えて来ていて、スカイメモSを購入しました。 天気がよくない日が続いていてまだテストも出来ないでいますが...。
kazuto645様、こんばんは。
再びコメントありがとうございます。
5D Mark IV、高い高いと文句言いながらも買ってしまいました(笑)。まだ本格的には撮っていませんが、ノイズ耐性やダイナミックレンジはかなり向上しているように感じます。
5Ds Rを借りて使ったことありますが、手持ちでもそんなにブレは気になりませんでした。とはいえ、感動するほどの解像感はなかったので、ひょっとしたら微妙にブレが出ていたのかもしれませんが…。
シャッター音は快感ですよね!一度知ってしまうとパコパコ言う軽いシャッターには戻れません。ただ、5D Mark IVはミラー振動制御システムを採用しているせいか、ミラーショックが押さえられてかなりマイルドなシャッター音になっています。いや、いいことなんですけど(笑)。
ポータブル赤道儀ですか!楽しみにしています。しかし、最近はずっと天気悪いですよね…。
こんばんわ
デジカメのシャッターのお話・・・とても参考になりました
電子シャッターのOM-D E-M1 Mark II
連写性能:2037万画素のAF/AE追従で18コマ/秒とは驚異的ですね
そんな仕組みでローリングシャッター歪みの対策をしているのか興味津々です
FマウントメインでMFT機も使いますが、本気撮りは必ずニコン機!
あのメカニカルシャッターが奏でるシャッター音が撮影モチベーションを上げてくれるからです
最近の新型機を見るたびに、メカニカルシャッター機が電子シャッター機に駆逐されてしまうのだろうと感じています
軽量小型でコストも廉価と思われるMFT機は大歓迎ですが、メカニカルシャッター機が消えることがないことを祈っています
air_4224様、こんばんは。
コメントありがとうございます。
長文をお読みいただきありがとうございます。写真を撮るだけでなく、一眼レフのメカニカルな部分も大好きなんです。機械式時計もたまらなく好きで、昔はスケルトンのを幾つも買っていました(笑)。
OM-D E-M1 Mark IIですが、Nikon 1 J5と同程度の読み出し速度だったらローリングシャッター歪みは避けられないと思うんですよね…。
メカニカルシャッターの音いいですよね!あれがスピーカーから出るシャッター音になったら興ざめです(笑)。
最近のミラーレス機はどんどん電子シャッター併用になっていますよね。おっしゃる通り、そのうちメカニカルシャッターは駆逐されてしまうだろうという予感がします。画素数競争の加熱でシャッターショックが無視できなくなっているので、仕方が無い流れなのでしょうが…。
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