道が無い山に登るルートは主に尾根(沢登りも方法の一つだがクライミング技術が必要)。藪はまっすぐ立った部分の方が寝た部分よりずっと歩きやすいので、斜面を登るより尾根上の方が楽だ(激藪だと斜面通過はほぼ不可能)。だからバリエーションルートにおける読図技術とは尾根上のどこにいるかを特定することと、尾根の分岐で正しい尾根を選択するのが主要な技術と言える。
正直なところ、登り方向は読図できなくても山頂に登れてしまう。というのも通常の山ではどこの尾根を登っても最後に行き着く先は一番高い山頂だから。ただし、山脈のように横に長い尾根の一角が山頂で、枝尾根を登った先は偽ピークで本当の山頂はその先の場合は騙されることはある。
問題は下り。尾根は下る方向はあちこちに分岐があるが正解は1つ。違う尾根に入ってしまうと計画とは違う場所に下りてしまう。このズレが小さい&途中に崖や沢などの障害物が無ければ許容範囲としていいだろうが、往々にして計画と違う尾根を下っていくと最後は沢で消滅ってことが多い。その沢が安全に下れればいいが、里山のような小さな山でなければ地図に描かれない滝やナメが登場し、沢沿いを下れないことが多い。
つまり、尾根の分岐で正しい尾根を選択する能力が重要。分岐が無い1本の太く明瞭な尾根では読図能力は不要だ。だからルートを決める際にそういう尾根を選ぶのは非常にいい手だ。
尾根の分岐は分かりやすい場所もあれば分かりにくい場所もある。分かりにくい代表格が平坦な山頂。ほぼ平らで広い山頂の場合、山頂からは尾根地形が見えないので最初から進路に迷う。地形に特徴がない場所は地形を読むもクソもなく、方位磁石だけを頼りに尾根のあるはずの方向へ進むしかない。尾根地形がはっきりするまでは恐怖の時間帯だ。また、出てきた尾根が目的の尾根かどうかもよ〜く確認する必要がある。基本は方位磁石の示す進行方向だが、地形的な特徴で現在位置が把握できるような場所が出てくるまでは正しい尾根だと確信が持てないことが多い。傾斜が変化する場所(ピークや肩もこの仲間)や太い尾根の分岐点がいい目印だ。ただし、このときに高度が不明では話にならず読図には高度計は必須。読図の「三種の神器」は地形図、方位磁石、高度計だ。読図の勉強をしようとしたら必ず高度計を購入すること。あ、今の時代はヘタをするとGPSロガーの方が安かったりして。
次に間違いやすのが尾根の分岐。一番厄介なのが分岐点で下り始めは主尾根の方が枝尾根よりも痩せていたり、急な下りで尾根の先が続いているように見えない状態。枝尾根に引き込まれる確率が非常に高い。これは方位磁石で確認できるが、特に急な下りで尾根の先が続いているように見えない地形の場合は磁石が正しいルートを告げていてもそれを信用するのは難しい。過去の経験で正しい尾根を見つけるのにとても苦労したのはこのケースが多い。
次に難しいのは、同じ傾斜が続く尾根の途中が分岐点で、直進方向に太い尾根が続くが枝尾根で、主尾根は最初は尾根形状を成しておらず分岐点から斜面を少し下ってから尾根の形をとるような場合。このように分岐点に地形的特徴が無い&樹林等で主尾根が見えない場合は地形から分岐点を判断するのはほぼ不可能で、高度計が唯一の頼りとなる。こんな場面は年に数回登場するが、毎回気持ち悪い。尾根歩きが基本のところを斜面下りだから、藪屋の本能が拒絶反応を示す。このときも下っている間は方位磁石で注意深く進行方向を定める必要がある。
尾根の分岐で誤りやすい次のパターンは小さな肩での屈曲。登りでは小さな肩に気付かなくて直進したと感じても、下りでは尾根が分かれていることに気付いて迷うことが多い。いや、分岐に気付いて迷うならいいが、気付かずに直進してしまうことも結構ある。注意散漫で歩いていると分岐があっても気付かずに直進するのが人間の性らしい。これが明瞭なピークなら間違いなく気付くだろうが。
これらの場所でで間違いを皆無にすることは、どれだけ経験を積んでもたぶん不可能。経験の違いはミスったときにいかに早く気付くかどうかに現れる。私の場合、ミスっても1,2分で気付くことがほとんど(たまに5分くらいかかることも)。このときも重要な役割をするのは方位磁石。尾根を間違えると方位は少なくとも45度はずれているだろう。多くの場合はほぼ90度、つまり正しい方向から直角方向にずれるので、ちゃんと磁石を見ていればすぐに分かる。面倒くさがらずに頻繁に方位磁石で確認することでミスの早期発見が可能。
ただ、人間の脳みそは疲れているときは都合のいいように解釈するようで「磁石が狂っているのだろう」なんて本気で考えちゃうんだなぁ。過去の経験で磁石が狂ったことはない。磁石が効かないと噂される青木ヶ原の中にある富士山寄生火山群でさえ磁石で歩けた。ただし、方位磁石の軸に不具合が生じて途中で針が引っかかって止まることはある。その場合、早めに買い換えた方がいい。こうなったら一時的に回復しても再発することが多い。私が今使っている磁石は数年間も不具合無しで非常に調子がいい。
今まで読図には地図と高度計、方位磁石が重要だと書いてきたが、もっと大事なのは「視界」。先が見える場所を探してこの先の尾根のつながりを確認できればルートミスはほぼ無くなるのだが、山では樹林で先が見えないことが多い。ただし、スポット的に樹林の隙間があって先が見える場所(倒木や崖など)はあるだろうから、少ない機会を最大限に生かして先を見たい。先が見えれば磁石は不要で、私はこれを「有視界飛行」と呼んでいる。藪が埋もれた残雪期の山などはほとんどこれでOK。逆に濃いガスが出ている中では視界が制限され本当に磁石と高度計しか頼れない事態に。これは非常に心細い。
さて、今週末も道が無い山に出かけるかな。
toradangoさん、こんにちは
先日、歩いた奥秩父の小川山から信州峠は、まさにtoradangoさんの仰っている事を、身をもって実感できる場所でした。
松ネッコの先の1915mのピークからの下りは主尾根の始まりが明瞭でなく、支尾根も最初のうちは主尾根と同じような方向に下りていて、かつ赤テープがそちらの方にあったので戸惑いました。
あらかじめ地図で見て、厄介そうな場所だと注意していたので、下り始めてすぐに何かおかしいと気付いて戻りました。しかし正しい尾根である確信が持てなかったので、最後はGPSのお世話になりました。
やはり文明の利器の力は絶大です。その後は正しい尾根を間違いなく下る事ができました。
ややもすると、GPSの使用を卑下するような方も居られますが、私は使う事により時間や体力のロスを防げるのであれば、積極的に使っても良いと考えています。
ただ、電子機器はバッテリー切れや故障もあるし、頼り切っていると勘が鈍ると言うか、GPSが無いと不安になったりするので(車の運転がそうなっています)地図やコンパスで確認できるのは重要であるのは間違いありませんが。
しかし、GPS機器も安くなりましたね。私が使っているのはロガーにルート表示機能がついたような物で、コンパスや高度計も付いています。値段からして地図が出ないのは仕方が無いけど、今回は充分に役立ってくれました。これが高度計単体より安いのですからねぇ。
便利な時代になったと言うしかありません。
いやあああ 奥が深いっすね!!
それでいて文章が分かりやすくて、
さすがはtoradangoさんです。
ブログも拝見させてもらいました。
地元の、しかもかなりマニアックな里山も登られていて、”脱帽”としか言葉が出てきません!
あまりのボリュームでざっと見ましたが、徐々にまたじっくりと読ませて頂きます。
guchi999さん、こんにちは。小川山から信州峠の記録は読ませていただきました。あの区間はピークに登るのが目的で歩いているので県境尾根を通して歩いたことはありませんが、地形図を見ると間違いやすそうなところがいくつか。尾根があちこちで屈曲していて、何となく歩いているとすぐに迷ってしまうでしょうね。
GPSは昔よりずっと安くなり、地図表示ができない機種だと高度計より安かったります。私が使っているガーミンのforetrex301(英語版)はバリゴの高度計より安かったです。こいつも地図表示機能はありませんので、主にロガーとして利用しています。でもウェイポイントを登録して簡易ナビとして使えるため、登る前に山頂の緯度経度を登録してから登り始めます。三角点等が無い山の場合は確認のためにGPSのナビ機能の出番です。ナビ機能は現在位置から目標地点までの方位と距離が表示されるだけですが、読図ができる人が利用するとこれだけの情報でも劇的に役立ちますね。同じ尾根を往復する場合は往路の軌跡が利用可能で、破線で表示された軌跡に重なるように歩けばOK。読図が困難でミスったら進退が極まるような場所(北ア硫黄岳など)ではお世話になりました。私も基本はGPSは使いませんが、最終手段として出番が回ってくる可能性はあるので持っていないと心配になってしまいます
guchi999さんのGPSも地図表示できない機種とのことですが、1915峰からの下りで地図なしGPSで正しい尾根をどのように判別したのか興味があります。私だったらヤバそうな場所を予めウェイポイントとして登録して、そいつを目標地点に設定して歩くかな。もしくは1915m峰をウェイポイントに登録し目標地点に設定したまま県境尾根を下って1915m峰からの方位と距離を監視するか。でも枝尾根が同じ方向に下っているので難しそう。やっぱりウェイポイント設定が確実でしょう。
GPSとは違いますが、1915峰から落ちる枝尾根上には送電線が通っているので、時々樹林の隙間から送電線を確認するのが有力な方法ですね。でも今の地形図には送電線が書かれていないんだよなあ
私の使っているGP-102というGPSは地図は出ないけど、あらかじめルートを設定できるのでトラックが表示され、そこに現在位置と向っている方向が表示されるのです。
だから、ルートに乗っているか、進むべき方向はどちらかが簡単に判ります。今回は行く前にカシミール3Dでルートを作ってGP-102に入れておきました。
1915峰の所は、山頂部がなだらかで尾根の分岐が判り難く、藪も有ったので厄介な所でした、おまけに鉄塔のある枝尾根の方向に赤テープが続いていたのも混乱する要因でした。
赤テープを追いかけても、もう少し下ればトラバースして正しい尾根に戻れたのかも知れませんが、なるべく分水嶺を辿りたかったのでGPSでルートから外れているのを確認し、尾根が明瞭になるまでGPSのトラックをトレースするようにしました。全くGPS様々です。
こういう物が4,5千円で買えるのですから良い時代になったものです。
teppenwolfさん、こんにちは。
今週末は奥秩父で読図&籔漕ぎでした。いや、籔は石楠花があまりにもひどかったので尾根直上を避けてトラバースの連続でした。地形図に無い岩場があったりと楽しめました。
毎週のように道がない山を歩いても間違えはよくあることで、今回も尾根を間違えかけました。トラバースしていると枝尾根を目的の尾根と間違えやすいんです。これも方位磁石でちゃんと確認すればすぐに分かるのですが。
私のHPを見ていただいたようでありがとうございます。個人の山のHPとしてはべらぼうな数(1400件以上、容量はDVDに入りきらないほど)なので、全部読むのはほとんど不可能でしょう。都道府県別やエリア別のインデックスを作ってあるので、そこから興味のある山を探すのが一番かと思います。関東甲信は高い山から里山まで何でもあり状態です
藪漕ぎご苦労様です(笑)
お時間あれば私の岩殿山(筑北村)のレコ(2013・8・19付)を読んで頂けたらと思いますが、岩殿山の北に連なる峰々を彷徨ったとき「トラバース・・・枝尾根を目的の尾根と間違え・・・」のニュアンスは、まさに痛感です。
幾度となく、岩っぽい尾根を巻いては別の尾根に迷い込み、切り立った崖でどん詰まる・・・と。
もっともそのときは(お恥ずかしい話ですが)コンパスや地図すら持たず、付近の景色や太陽の位置、時々見える送電線のみでド素人なりに位置を判断したわけですが。
もしかしたら toradangoさんも既にその山系を踏破済みかもしれませんが。
そのときはかなり切羽詰まってましたが、誰一人いない彷徨いの山中を、どこか楽しんでいる気持ちが何割かある自分もいまして。
あの感じは、登山道などない山に入った人しか感じ得ない感覚かもしれませんね(笑)
あの付近の山はほぼ未踏です。今年秋には会社の移転に伴い長野市に強制移住(私は喜んで行きますけど)なので、そうなってから長野県内の地形図記載の山は総ナメ予定なので覚悟して下さい
地形図を見ましたがゲジゲジマークと密な等高線だらけでヤバそうな雰囲気がプンプンですね。私の場合は岩はやらないのでできるだけヤバそうな場所を避けてます。
やはり、お気にめして頂いたようで(笑)
ただ、大ベテランのtoradangoさんに「ヤバそうな雰囲気がプンプン・・・」と言われると・・・
あらためて鳥肌が立ってます。 生還できてよかった・・・・・
連休も、懐かしさとおさらいで、隣の京ケ倉から岩殿の北の峰々をじっくり観察してみましたが・・・
やはり鳥肌でした(苦笑)
それより長野へ異動ですか!? いやあ、僕の地元をあまり荒らさないで下さいね(笑)
そのうちきっと、toradangoさんの車(ブログの写真にて確認)を山奥の林道とかで発見しそうですね(再度笑)
なるほど。ルート登録が可能なんですね。納得です。私のGPSもできるはずですが、トラックのダウンロードは頻繁にやっているのに逆方向のPC→GPSへのアップロードはやったことがありません。ウェイポイントの登録はPCを使わずオフラインです。
私の場合は重要ポイントのウェイポイントを入力しておき、それを次々に呼び出して進むような使い方ですので、マニュアルでのルートトレース機能ですね
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