山行記録の作成が遅々として進まないので先にこちらを書こうと思う。山行記録は以下。
http://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-446235.html
先日の雲取山〜飛龍山の山行で人生初のビバークをしてきた。「ビバーク=予定にない露営」とするなら、今回の山行は半ば途中で寝るのを織り込んだ計画だったのだからビバークと呼ぶのは適当でないかもしれない。しかし他に今回の体験を表すうまい言葉も見当たらないので、取り敢えずビバークとしておく。
今回ビバークしたのは飛龍山と北天のタルの間の巻き道。行く手を阻まれた地点から少し道を戻り、地面が乾いていて柔らかく平らで、幅50cmぐらいの所を選んだ。空は開けていて、月明かりが当たっている。遠くには首都圏の夜景も見える。なかなかのビバーク適地だ。当日は風が強く、稜線上は行動中でもかなり寒さを感じたから、風の避けられる巻き道にいたのは幸いだった(巻き道だったからこそ残雪に行く手を阻まれたのだが)。
手持ちの道具は100cm*150cm程度のエマージェンシーシートとツェルト(ファイントラックのピコシェルター。気前良く貸してくれた友人に感謝)のみ。テントを立てた上でテントの外で寝たことはあるが、テントを持たない状況で山で寝るのは初めての経験だ。いやテントどころかシュラフカバー、マット、シュラフすらないのだが。
まず着られるものをすべて着こみ、靴を履いたまま、エマージェンシーシートで脇から膝まで体をぐるぐる巻きにする。膝から踝までは雨具がむき出しになっているものの、それほど寒さは感じない。ピコシェルターは設営した状態だと体育座りでなければ入れないサイズのため、説明書を参考にベンチレーターから頭を出してポンチョのように被った。ザックは中身をなるべく雨蓋の方に寄せ、上半身の下に敷きこむ。これで取りあえず寝てみる。時刻は23:30。
5分ぐらい経ったが、眠いはずなのに寝付けない。腕が冷える所為だ。ふと目を開けると、ポンチョの裾が風を孕んでスカートのように捲れ上がっていた。ピコシェルターポンチョは裾を絞れないため、足元からの風が吹き込み放題なのだ。腕を組んだ状態でポンチョの裾を両腕にぐるぐる巻きにすることでこれは改善された。見た目は奇妙だがシートで覆えない腕部分がこれで完全にカバーされる。計算しつくされた見事なシナジーと言えよう。暫くして眠りに落ちた。
どれほど時が経ったか、目が覚めて空を見ると月の位置はほとんど変わっていない。眠るが勝ちと目を閉じたがなかなか眠れない。どうにも膝下が寒いのだ。諦めてツェルトを解き、腕時計を見るとまだ12時過ぎだった。
裾が解けて腿までずり上がっていたシートを戻して寝る、すぐ目覚めるというのを2回か3回繰り返して、仕方なく抜本的な対策を取ることにする。シートを縦に使えば踝までしっかり覆える代わりに巻き数は少なくなる。巻き数を減らすと寒いのではないかと思っていたが防寒性能は全く変わらなかった。ただシートの短辺はぎりぎり体に巻きつけられる程度の長さしかないため、解けて寒さに目が醒め、巻き直して寝るというのを何度か繰り返さねばならなかった。テーピングか何かで目張りすればよかったのだろうが、わざわざそこまでする元気はなかった。
またツェルトで覆った部分が蒸れるのも不快だった。特にぴったりと密着させた両腕、ベンチレーターとの間にクリアランスのない首は酷く、全身寒くて震えが止まらないのに首と腕だけはびっしょりと汗をかいている状態だった。暖かいだけましだと思ってこれは我慢した。
逆に全身のうち顔だけは何も覆うものがなく、風が吹く度に痛いくらい冷えた。冬山で使っている目出帽が欲しいと切実に思った。手ぬぐいか何かを1枚巻きつけるだけでも大分違っただろう。
それから暫し安眠し、26時ごろに再び眠れない時間帯が訪れた。今度はもう何もできることはなく、ひたすら寒さと体の震えに耐えるばかりだった。途中何粒か顔に冷たいものが当たってはっとしたが、降りだすことはなかった。
次の長めの眠りから醒めると漸く東の空が赤らみ始めた所だった。前日19時に日が落ちてからというもの、人生で太陽の光をこれほど待ち侘びたこともない。もう少しだけ辛抱して、太陽が山の端から顔を出しかけた4時24分を起床とした。シートを体からはねのけた途端、冷水のシャワーを浴びたような寒気に襲われた。と同時に一層酷くなる体の震え。正直期待していたほどではないなと思いながら寝ていたが、なかなかどうして効果はあったらしい。震えが酷過ぎて前歯で噛もうとしたリッツを奥歯で噛んでしまうぐらいだ。冬山でさえ経験したことがないような尋常でない震えだった。このままだと突然ポックリ死んでしまうのではないかとすら思えた。そんな震えも身支度を整えて10分ほど歩いたらぴたりと治まった。不思議なものだ。
というわけで。今回は寒さには参ったが、風も雨もなかったのだから比較的恵まれた条件だったと思う。あれでもし夜半に雨が降っていたらどうなっていただろうか。眠れないなどと悠長な事を言っている暇がなかったのは確かだ。
模擬とはいえ、ビバークの大変さが骨身に染みた一夜だった。今後日帰り山行の計画を立てる度に、今回の人体実験を思い出すに違いない。
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