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さて、普通にビバークと言う場合の「フォースト・ビバーク(forced bivouac)」は、“緊急露営”とか“不時露営”と日本語訳されています。一方、“計画的ビバーク”と呼ばれている露営はフォーカスト・ビバーク(forecast bivouac)と言います。天気予報(Weather forecast)の”forecast”と同じ単語です。意味としては、予想されたビバーク、すなわち「計画的ビバーク」ということなる訳ですね。「簡易露営」と呼ばれる場合もあります。
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“ビバーク”という言葉の響きの良さ、あるいは字面の良さから「ビバーク」という言葉を私たち登山者は善意的に解釈しがちな気がします。簡単に言えば「なんだかカッコイイ言葉」という感じを持つのは正直なところかも知れません。
私が高校生のときに読んだ松濤明の“風雪のビバーク”は、冬の北鎌尾根での遭難死という壮絶さもありますが、“ビバーク”という言葉のもつ響きも感銘の要因の一つではないかと思ったりします。
そんな理由もあり、若い頃のふざけた私たちは、夜行列車で駅に着き、その駅で寝ることを“ステーション・ビバーク”と言っておりました。あるいは、先生や連れの家で酒を飲み、泊まり込むことさえも“ビバーク”と称したバンカラな時代もありました。
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緊急露営”とか“不時露営”を意味するフォースト・ビバーク(forced bivouac)は、単に「ビバーク」と呼ばれることは先述の通りですが、このフォースト・ビバークについて、日本山岳協会発行の“登山指導教程”には次のように書かれています。これは非常に古い書物ですが、今でも役に立つ内容なので抜粋して引用しておきます。
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[b]緊急露営(フォーストビバーク)の種類と応用技法より[/b]
定義(考え方)
予期せざる事情により、目的地まで到達することが困難と認められるとき、緊急に不十分の状態で露営することをフォースト・ビバークという。満足な状態で行われる避難小屋、幕営等と区別される。
行う場合の考え方
1 判断
(1) フォースト・ビバークを行わなければならなくなったことは失敗である。
(2) その失敗をいかにして最小限度で食い止めるかを第一条件として考えなければならない。
(3) そのときの状態を考慮に入れて、いつどこで行うか、危険を避けて迫りくる夜をいかに過ごすかを考える。
(4) フォースト・ビバークのための遭難は絶対に避けなければならない。
2 実情の分析
(1) メンバーの疲労度、心理状態など
(2) 地形…場所的安全性、目的までの危険性
(3) 時間…判断を下す時の時間、目的地までの時間
(4) 気象条件…天候、風速等
(5) 目的地までの距離
(6) 装備、食料など
3 決行するときの留意事項
(1) 安全な場所
(2) 自然の地形、地物等の利用
(3) 持参物を極度に利用
(4) 衣類等が濡れている際の危険
(5) 日没前に決定
(6) 疲労者(負傷者)に対する配慮
(7) ビバーク場所の明示
以下、方法手段や安全性などは省略。
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以上の引用の通り、フォースト・ビバーク(すなわちビバーク)を行わなければいけないことは「失敗」です。ビバークという言葉の響きの良さに引きずられて、おごった意識を反省して、そもそも本当にビバークするような事態にならないように計画して行動すべきなのです。
その他については賢明な読者は一を知って十を知りうる内容ですので省略しますが、次に書くような“フォーカスト・ビバーク(計画的なビバーク)とは完璧に区別する必要があります。
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[b]フォーカスト・ビバークについて[/b]
フォーカスト・ビバーク(計画的なビバークあるいは簡易露営)は、ロングな沢登りや冬の稜線などを登る場合には自由に行われてきました。
しかしながら、沢登りや冬山登山などとは違い、最近の人が超軽量なツェルトを使っての露営をビバーク(フォーカスト・ビバーク)と言う場合、言葉の定義自体が分かりにくくなっている上に、最近では避難小屋の積極的な利用や、無雪期の一般道でツェルトを利用した幕営行為も時々見受けられるのは検証すべきことだと思われます。
さらには、そのことから派生して、「闇テン」とかいう言葉もあり、私なんぞは何を言っているのか訳が分からなくなっています。「闇テン」という言葉をネットで検索したら麻雀用語が出てきました(笑)
どうやら、許可された幕営地以外での露営を「闇テント泊」と呼び、その省略形が「闇テン」と呼称するようですね。さらに調べてみると、イリーガルでも黙認されるような幕営を表現した言葉も見つけましたが、正直なところウラシマ太郎の私には訳が分かりません。出来ればこういう言葉は登山用語としては根付かないで欲しいと願います。昔の工事案内板の「○○道路補修及び改修工事」というような難しい表記ではなく最近の「道路を直しています」というような分かりやすい文章でいい訳ですので、そういう風に表現をしてもらえたらと思ったりします。
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いわゆる、困難なルート(沢、岩、雪山など)でのフォーカスト・ビバークの是非については下手に論ずれば藪蛇になりますが、無雪期の一般道の道端でツェルトやテントを使った言わば闇テン(許可されていない場所での幕営)をしている人には、どの程度のモラルがあるのか疑問です。自分さえよければそれでよし、という考えであれば道端にゴミを捨てる人間と同じです。そういう人の心は自分自身は分かっていることだと思います。
“道端に捨てた心は拾えない”。
しかしながら、山域や季節によっては比較的自由な幕営も黙認されることもありますので必ずしも目くじらを立てることが本来的であるとは思えません。見知らぬ大地を数日分の食料とテントを持ち、景色の綺麗な場所で沢があるような場所にテントを張って夜を過ごすのは古来からの人間の営みでした。また、楽しみであったと思います。そういう言わばワンダーフォーゲルの原点の精神のようなものまでもルール化した場合、私たちの精神性までもが狭く感じられてしまいます。ルールはルールとしてオーバールールもありというぐらいが丁度いいんじゃないでしょうか?そのあたりの曖昧性は残しておいた方がいいように思えます。
避難小屋の積極的利用に関しては、場所や設置目的や季節など様々な状況があるので一概には言えませんが、私個人の考え方だと避難小屋の積極的利用は賛成しかねます。建物は適切に綺麗に使った方が長持ちしますが、本来の狭義の避難小屋の設置目的は遭難防止のものであるので、それを積極的に利用するというのは何だか調子のよい感覚をもちます。積極的な利用を推奨している避難小屋もありますので“避難小屋”という名称だけで判断するのは良いことではありませんが、“ビバーク”という観点から言えばほど遠いものがあるように思えます。有料のしかも有人の避難小屋は山小屋と呼ぶべきものだと思います。
どちらにしても、避難小屋を利用した場合は、ユースホステルのキャッチコピーのように、「来た時よりも綺麗にして帰る」という心掛けは必要なことです。これは本当に緊急時に利用した場合も同じです。そういう意識があれば避難小屋の積極的利用は建物の保全という観点からは必ずしも悪いことではないという考えも生まれます。
最後ですが、私が二十歳ぐらいに作った”ツェルト”という詩を披露します






ツェルト
この薄っぺらな布が内と外を区別する。





お粗末でした

今回の日記は機会を見て改良した上でヤマノートにしてみます。
写真は、上記文章の中で登場した松濤明の風雪のビバークと登山指導教程の本です。
こんばんわ
非常に勉強になりました。ありがとうございます。
わたしは個人的には非難小屋を通常時、宿泊に使用することには、疑問符です。
ほとんどの場合はテント装備で歩いてますが、基本登山道でビバークもしくは幕営したことはないです。
(ふふふ・・鬼ヶ面でありましたね。一回だけ強風・豪雨で)
夜間歩きが好きなせいか、当初の目的の小屋までは到着してます。(時間は非常識な時間ですが(^^;)
ツェルトの詩・・いいですね、シンプルで。
雪山や豪雨、強風の幕営を経験すると実感する詩ですね
今年の冬は・・ふふふ・・イグルーで遊んでみたいです
yoneyamaさん、ヤマノートありがとうございました
でわでわ
蛇足ですが・・わたしは「ビバーク」=「撤退」のイメージです
murrenさん、こんばんは。
日本山岳協会の定義の一つに「 フォースト・ビバークを行わなければならなくなったことは失敗である。」
とありますが、これは時と場合により一概には、そう云えないのでは・・
予期せぬ「体調の悪化」や「天候不慮」でそのまま移動を続ける方が、大きな失敗では、と思います。
>その失敗をいかにして最小限度で食い止めるかを第一条件として考えなければならない。
その為にビバ−クをするのでは。
最近の登山者の多くは、書店で購入した本を手本にしている人もいます。緊急時のビバ−ク選定の場所を誤り死亡するケ−スも有ります。
やはり、山岳会等である程度学んでからの方が良いと思います。
>有料のしかも有人の避難小屋は山小屋と呼ぶべきものだと思います。
そうですね、ある地域の山小屋はある期間だけ有人となっていますね。
一般的には、トイレと炊事のあるのが山小屋ですが、それも、最近は? と思うのも見かけますね。
uedayasujiさん、こんばんは。
詩をお褒めいただき光栄です
ビバークは恐怖の夜を明かすためにするのが普通ですが、uedayasujiさんは夜も歩いてしまいますから迫りくる夜の恐怖はあるんでしょうかね?
考えてみればすごい人ですね。幽霊も恐れをなして逃げそうです。
イグルーを作るのは私には難しいですがその意味ではyoneyamaさんの雪質で判断するというのは目からウロコでした。是非、イグルーレコをしてみてください。
nonkibouさん、こんばんは。
フォースト・ビバークをすることになるのは山行としては失敗という意味ですが、ビバークしなければいけない状況でビバークの決断もせずに行動を続けてしまうというのは大失敗になってしまうことが多いでしょうね。そういう事故例はよく耳にしますが、そのあたりのケースはnonkibouさんよくご存じなんでしょうね。そういえば、小学生だったか中学生だったかが動かずにしていて助かったケースが近畿の山で最近ありましたね。
フォースト・ビバークは言わば遭難の一歩手前ですのでイメージトレーニングなりはした方がいいと思いますね。
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