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さて、夏山でもっとも怖い「カミナリ」についてであるが、カミナリは平地にも落ちるので基本的には平地でのカミナリ回避の知識と同じである。
カミナリには入道雲による「熱雷(ねつらい)」と寒冷前線の通過に伴う「界雷(かいらい)」がある。熱雷よりも界雷の方が雷としては怖い。熱雷と界雷が合体したような「熱界雷(ねつかいらい)」という凄まじいカミナリもある。
ちょうど今ぐらいの時期、高温多湿の小笠原高気圧が日本付近に張り出していて、前線を伴う低気圧が日本海から接近していて、その寒冷前線の南下に伴い熱界雷が発生しやすい。雷には3年周期説があるらしく、おそらく今年は当たり年のように思われる。ちなみに、太平洋側では落雷は夏に多いが、日本海側では冬に多いと言われている。
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すさまじい界雷は寒冷前線の通過に伴うものなので、山では激しい雨になっている筈だから、実際問題としては、界雷に当たって山で死ぬというのはあり得ない筈である。もしそうならアホである。なぜなら、天気図から予想されているはずの前線通過にともなう突風や豪雨の中を無理をして(無茶をして)歩いている姿が想像できるからである。ちなみに、熱雷は昼間の午後の発生が多いが、界雷は昼夜関係なく発生する。
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我々登山者が落雷事故を心配するのは熱雷だ。
熱雷は上昇気流によって出来た入道雲が電気を帯びることで雷雲となって発生するものである。この原理が分かると回避行動もとりやすくなる。
上昇気流は、地表付近が太陽で熱せられて山の上などが冷たい空気の状態だと強烈な上昇気流が出来る。空気の湿度が高いと上昇にともない雲が出来やすい。水蒸気が水滴になるときに液化熱という熱を出すので上昇気流は衰えることなく上昇していく。上昇気流によって出来た積雲はさらに発達すると入道雲(雄大積乱雲)になる。さらに発達して上昇して1万メートル以上の成層圏まで達すると上空の風に流されて頭が金床のようになる“カナトコ雲”になることがある。このカナトコ雲の中では超強烈なカミナリが発生している。余談であるが、その上昇気流に吸い込まれたハンググライダーの事故が昔あったそうであるが、もみくちゃにされた上にカミナリにめちゃくちゃに打たれて二日後に発見されたことを聞いたことがある。大型の飛行機でもカナトコ雲に入ると墜落の危険性がある。恐ろしい!!!!!!
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このあたりの雲が出来るメカニズムのことは、私の日記『山に吹く風の話(その2):上昇気流』に書いているので省略するが、その日記で書いたように、昭和42年(1967年)8月1日、長野県松本深志高等学校の学生11人が西穂独標付近で雷に打たれて死亡した「西穂高岳落雷遭難事故」は、登山者たるものは語り継いでいかなければいけない事故だと思う。
その日記でも書いたが、富士山と下界の温度差が25℃以上だと90%雷雲が出来ると言われている。20度以上なら60〜70%と言われている。アメダスや天気図を書く場合のラジオからの情報で富士山頂の気温が6度であって、下界が35度であれば100%どっかで雷が発生する可能性があると言ってもいい。
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登山者としては、山を登っているときに雲の発達を観察しているとよい。
上昇気流による雲(私たちはサーマル雲と呼んでいる)が出来て、それが積雲に発達していくようだと主に午後にカミナリの危険が予想される。サーマル雲が出来ては消えるような状態だと湿度が低いと判断できる状態なので安心できる。ガスの中に入ってしまうと見分けがつかないが、雲の出来る様子は落雷事故の予防に役に立つ。
積雲が発達過程である場合は雲の輪郭がハッキリしている。そういう場合はさらに雷雲(雄大積乱雲)まで発達する危険があるということだ。逆に積雲の輪郭がぼやけている場合は雲の発達は終わりを意味しているので雷雲にはならないだろうという判断ができる。
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登山者が雷雲の接近を知る一番良い方法は目視であるが、ガスの中では雷雲は見えない。そういう場合はゴロゴロとした音や雷センサーやラジオの空電でカミナリの接近を知ることになる。スマートフォンが使えるなら気象庁のレーダーはとても有効である。
雲の下が黒かったり、昼間なのに暗いということはそれだけ雲が厚いということなので雷雲の下に入っている危険がある。逃げる覚悟をしなければならない。逃げる場所は小屋が一番いいが、ない場合はそれなりに理論的に考えるべきだ。先を急ぐ方がいいのか、戻った方がいいのか、安全第一に判断するべきだ。
稲光と雷鳴は同時に発生している訳だから、稲光と雷鳴の時間差でだいたいの距離は分かる。音は1秒約300メートルである。厳密なことはどうでもいい。それを踏まえて雷雲は時速40キロぐらいで接近することを念頭に置いた方がいい。もっと速い場合もあると思う。
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稜線にいた場合は、稜線を避けて、下山道の脇の安全な場所で退避するべきであるが、そのような最悪の状況に入らないような事前の注意が必要である。
雷に打たれない注意としては、地表との接点を少なくするように頭を低くしゃがむ姿勢が良いとされている。寝ころんでいると地電流で死ぬ場合もあるそうである。また、樹木の下も枝から電流が伝わるらしいので高い樹木の下はダメであるが、高い樹木のある角度の一部分はカミナリからの保護範囲と言われている。このあたりは責任問題となるので私は書かないが自分で調べて欲しい。ざっくり書けば、4メートル以上離れた45度以内の角度が保護範囲であるらしいが、山のカミナリは上からだけじゃないので安心はできないのである。
[b]追記[/b]:落雷というのはプラスとマイナスの電気が電位差を無くするためにショートする現象なので放電しやすい場所(高い樹木や鉄塔など)は落雷しやすい。避雷針も雷を避雷針に落とすことで他の物の被害を食い止める手段である。そのために下界では45度が保護範囲であるらしいが、山では雷は横からも場合によっては下からも走る。だから保護範囲が有効ではないように私は思われる。だから上記では表現をぼかした。何はともあれ、小屋に逃げ込むことができればそれが一番と思うぐらいだ。小屋はそういう意味では「黄金の御殿」である。
金属を身につけない方がいいのか付けた方がいいのか議論が分かれているが、情報としては、時計やザックなどの金属がある場合は、電流が金属を伝わり人体の表面を走るので即死は免れると聞いたことがある。金属がないと電流は人間の脊髄を走るので即死してしまうとも聞いたことがある。どっちが本当に正しいのか分からない。少なくとも私は時計は外さないように考えている。ただし、時計には雷は落ちやすいと思われる。それは時計を雷が狙ったというより、人間を狙った雷がたまたま電流が流れやすい時計に落ちたと考えた方がいいと思っている。
余談であるが、私の山の先輩が剱のどっかの岩峰をロッククライミングで登っていたとき、トップの者が落雷の地電流を受けてその電流がザイルを伝わってきたという話を酒の席で聞いたことがある。完全に嘘じゃないにしてもかなり怪しい。ザイルは濡れていたのかとか、突っ込みどころ満載であるが真実は今も不明である。どちらにしても、もしも雷が落ちた場合を想定して、電流がどういうふうに流れるのかイメージすることは最悪の状況での小さな楽しみなのかも知れない(無責任)。
[b]追記[/b]:しゃがんだ姿勢で足は閉じた方がいいらしい。開いていると右足から電流が登り左足に流れるとか?本当かな?指で耳穴を閉じた方がいいらしい。
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熱雷が発生しても、それが遥か下の雲海ならばこれほど楽しいことはない。富士山の歌に「雷様を下に聞く〜♪」という歌詞があったような。。。浩々とした月夜に、北岳の肩の小屋から見た甲府盆地の足下遥か下の雲海の中に、花火のように雷光が広がる美しい景色を覚えているが、そういう雷だと最も安全で安定した夏山の稜線と言える。
どちらにしても、午後の早めに小屋付近に到着できることが望ましい。
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[b]追記[/b]:「雷三日」という言葉がある。激しいカミナリに打たれた地域は引き続き次の日もその次の日もカミナリの危険性が高いというのは経験上当たっている。
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ちなみに、スイカは雷とは全く関係ありませ〜ん


雷は、怖い〜´д` ;
夏は、注意デスね。
出来るだけ午前中に山歩きを終えるように
してはいるのですが…。
白馬縦走もどっち周りにするか悩んで、
一番危ない場所、逃げ場がない場所を
朝一で通過しようと言う事になり
八方から栂池周りの計画にしました。
天気が悪ければ、唐松止りになってしまうのは
ザンネンですが…。
しっかり読ませていただき、参考にします。
いつもありがとうございます。(⌒▽⌒)
chibikoちゃん、すばやいコメントをありがとう
不帰ノ嶮を通過するのを心配しているようですが、でも、あわてないで歩いてね
chibikoちゃんは晴れ女みたいだから大丈夫ですねきっと
八方から登る場合はマテウスロゼを飲むと縁起いいみたいですよ。
発泡酒って言いますから
murren さん、今日は。
私も若い頃、黒部源流に行った時、太郎小屋を越えて薬師沢小屋まで行く積りでしたが、太郎小屋の少してまえで急に雨が降り出し、物凄い雷が鳴り出しました。その時の音と稲妻に度肝を抜かれました。稲妻は足元で光ります。髪の毛が立つと聞いていましたが、それは無かったので、雷雲の中には入っていなかったのですかね。
小屋まで10分か20分だったと思いますが、生きた心地はしませでした。
あっ!忘れてました〜‼
スイカ大きくなりましたね。
私の会社の人もスイカを作っていて
カラスと格闘してるって言ってました。
大きくなると嬉しいですね〜。
mesnerさん、こんにちは。
太郎小屋に向かう途中の登りの時だということですね。怖かったでしょうね。
私はいつも退避行動が速いのでつまり逃げるのが速いので最悪の状態で屋外にいたことはありませんが、顔が上気したように毛が逆立つような感じは山の中でも何度か経験があります。また、パラグライダーで飛んでいて小さな積乱雲に吸い上げられそうになったことがあります。雲の底は何かしらゴーという巨大な送風機の裏側のような音がしていました。いちばんひどいカミナリは奥穂でテントを張っていたときですが小屋に逃げ込みました。カミナリだけは逃げ込むのがベストな行動ですね。
chibikoさん、よく見てくれました
そろそろ収穫ですがカラスも考えている頃だと思います。
去年は最初のスイカを3個ぐらいカラスにやられましたからね。今年はたぶん大丈夫だと思っています
murrenさんの日記でいつも勉強させていただいてますが、今回は日記を読み終えて、あ〜やっちまった〜って感じでした
「午後の早めに小屋付近に到着できることが望ましい。」ということですが、土曜日は悪天候の中、午後過ぎてから山に登り始めてしまいました。
それも初めて登る山で。。。
無事帰還できたから良かったものの、何かあったら非難されてもおかしくない行動でした
にもかかわらず、暖かいコメントありがとうございましたm(__)m
Daveさん、こんばんは。
どういう理由だか分かりませんが私はDaveさんのことは余り心配していません。そういう私の直感とか嗅覚は当たっています。私の回りでも私が不安を覚える人は過去残念ながら何らかの事故(死亡事故も含む)を起こしています。きっと、昔真剣に山などをやっていたときの自分の感覚と照らし合わせてズレていないか私の中で自動的にチェックしているんだと思います。偉そうに書いてすみません。
今の時代は昔とは違って色々と科学的な情報も入っているし、観天望気のことも多くの人は知っています。つまり昔より安全登山ができる時代だと思います。装備もいいし。それらに不安がある人はセオリー通りに登山をすればいいと思いますが、セオリーを外れた場合にやはり事故なり問題が発生すると思います。
まあ、最初にも書いたように私はDaveさんはステディに山をやっているように思えます。ですからそれほど心配していません
ミューレンさんこんばんわ。
いつも貴重な情報有り難う御座います。
雷・・・怖いですね
会いたくないNo.1です。No,2は熊さんですかね。
(いや、どっちもNo,1かな)
山行中、未だ雷には遭遇した事はありませんが、今回の情報は大変タメになりました。
有り難うございました。
※日記の内容と写真が合致せず、深読みしましたが・・・直接は関係ないんですね
いつも有益な座学をありがとうございます。
カミナリじゃありませんが、山に行って雨に降られるのは辛い。雲行きが怪しくなってきた時に「行くか戻るか」の判断が重要ですね。
先日の金峰山でも山中でザっと通り雨が来て、こりゃヤバイと思ったのですが、空を眺めるとそれほど暗くなく、雲の色も黒くないし動きも少ない。そこでこれなら夕立にはならないだろうと判断しました。
出かける前に天気予報、天気図を確認することは言うまでもないですが、現地でも雲の様子をよく見て判断する必要がありますね。
「観天望気」の腕は磨きたいものです。
もしカミナリがなり始めた時、やはり悩むのは樹木の下が良いのか離れた方がいいのか、ということ。
「4メートル以上離れた45度以内の角度が保護範囲。」。これ覚えておくことにします。
hiro-kunさん、おはようございます
山のカミナリと熊とは比較にならないほどカミナリの方が怖いと思いますが…。っても、私は近くでで熊を見たことがないのです。あっ、違うか遥か昔双六から新穂に降りるところで見たかな。他にも思い出すと所々で遠くから見たこと思い出すけど、ほんとのことを言うと適当な距離で熊は見たいです。
危険ということに関しては登山道なら熊はよっぽど大丈夫だと思いますけどね。
スイカは全く関係ないです。少しコメントを加えておきますね
コメントありがとうございました。
pasocomさん、おはようございます
こちらこそpasocomさんの情報は役に立っています。
観天望気は天気図との裏付けがあれば非常に有効だと思います。もっと言うと、山に入る3日ぐらい前から天気図をとって気象解説者の話を聞いてニュアンスをつかみ、数日空を見ながら過ごしていると、山での観天望気が有効になってくると思います。まあ、これは昔からの真面目な方法ですが、最近では、直前は何と言っても気象庁のレーダーですね。降水ナウキャストや雷情報などは抜群に精度が高いですね。それこそ10分ぐらいの精度で雨を予測することも可能ですよね。
いわゆる雷の保護範囲に関しては山では必ずしも有効でないように思えます。ですので私はボカして表現しました。要するに雷というのは電気がショートする訳ですので、空から雷が落ちるのか樹木から電気が走るのか、電位差を無くすためのショート現象が落雷だと思いますので、樹木の近くは雷が落ちやすいので4メートルというのが安全なのか山では微妙な気がします。個人的には樹木の近くは危ないと思っています。このあたりは私も分かりません。
下界では有効だと思いますが、このあたり誤解があるといけないので日記にも追記しておきますね。
毎回旬の座学ありがとうございます
私の住む群馬は雷が多い場所として有名です。
雷3日は幼い頃からおばあちゃんから聞かされていました。 と、いうか群馬は夏の午後には3日どころか毎日雷が鳴るような感じです
未だ稜線で雷に出くわしたことはないのですが、
先輩山仲間は雷だけには注意するようにと言われています。
書かれているように上からだけでなく横からも地面を這ってくるというのです
先月の山行でも、歩き始めて1時間ほどで大きな落雷の音を聞き、その日はすぐに撤退を決めました。
歩きたくて仕方なかったのですが、その判断は間違えていないと自分に言い聞かせて降りてきました。
稜線で出くわした時の対処法も普段から意識して頭にいれておかなくちゃですね。
今回もmurrenさんの日記から沢山の事を学びました。
ありがとうございました
なかなか立派な甘いスイカ。早く食べられるといいですね
mitukiさん、こんばんは。
群馬は内陸部なので太陽熱が地面をあたためやすく強力な上昇気流ができるので入道雲が発達しやすいので雷が多い訳ですね。たとえば海風が入るような所だと強力な熱雷の発生は少ないと思います。仕方ないことなのであきらめてください。
山のカミナリは私もかなり昔なので段々と記憶がよみがえってきましたが、小屋に逃げ込んだことが一番多いと思います。深刻な場所ではカミナリとの遭遇はなかったと思いますが壮絶なカミナリは奥穂とか槍が岳で遭遇した記憶があります。
ただ、いわゆる熱雷(夕立)は、一過性のものだから、やり過ごせば案外とよくてその見極めが大切ですね。いまならレーダーがあるのでかなり分かります。その一番激しいときにパニック的な判断をしないようにして、安全な場所でじっと耐えることが必要ですね。これは下界でも同じですね。
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