![]() |
![]() |
![]() |
後者ふたつの大室山は、どちらも形の整ったスコリア丘の印象的な山で、火口があり、山頂の平らな部分がちょっと傾いているところもそっくりだ。名前が同じなのは何か関係があるのだろうかと疑問に思っていた。どちらも約4000年前に噴火しており、有史年代ではないが、縄文時代の日本人はその噴火の様を目撃していたかもしれない。およそ、火山の噴火ほど印象の強烈な自然現象はないであろう。
丹沢大室山のすぐそば、畦が丸の神奈川側にモロクボ沢という沢がある。山梨県側には室久保沢がある。佐藤芝明著『丹沢・桂秋山域の山の神々』(昭和62年)によると、「室(ムロ)」を「モロ」と発音するのは、丹沢地域の方言のひとつ、とあり、そもそも道志の方の沢のこともモロクボ沢と表記している。
また、うちにある山と渓谷社『アルペンガイド8丹沢』(第5版、1997年)では、大室山を大群(室)山と表記していた。
「目からウロコの地名由来」というHPでは、伊豆の大室山の由来として、このように説明している。『「大室」は「ムロ」がその語源だ。「ムロ・ムレ・モロ・モリ」は同源で、古代朝鮮語から入った和語で、山の意味だ。確かに「〜森」や「〜丸」という山名は多い。丹沢山系の大室山(1588m)は、かつて「大群(おおむれ)山」とか「大牟礼山」と呼ばれていた。』
なるほど、確かに丹沢には「〜丸」という山名が多い。東北の方にも「〜森」というのは多いようだ。以前地図で見つけてぜひ行ってみたいと思ったのが、宮城、岩手、秋田の県境、鬼首の周辺に、「山猫森」「竹の子森」「ツクシ森」「水晶森」などという、実に魅力的な名前の山がたくさん並んでいるのだ。どこの宮沢賢治的世界だと思うが、考えてみれば賢治の故郷からそう遠くない。もしかしたら、賢治は自分の住んでいる地域の地図を眺めて、作品のイメージを得ていたのかもしれない。
日本書紀でも、「山」を「むれ」と読む例は多いらしい。
「日本語千夜一話〜古代語編〜」というHPでは、「辟支山(へきのむれ)、沙山(さのむれ)、居曾山(こそのむれ)」などという例があげてある。「牟礼」「牟漏」(むれ)などは、山の意味であるという。
ということは、大室は、やはり「大山」という意味だろうか。
だが伊豆や富士の大室山は、とても「大山」というイメージではない。どちらもすぐそばに天城山、富士山という、はるかに大きな山をひかえており、誰が見てもむしろ前座の小山という感じである。
しかも、それならば「室」が「丸」や「森」のかわりなわけで、「山」がつかない例が多くあってもよいはずだ。検索をすると、「山形神室」「仙台神室」「栄蔵室」などという例があるが、そんなに多くはないようだ(「〜丸」で「山」がついている例は、国土地理院の地図の「畦ヶ丸山」くらいか)。「かむろ」は禿(かむろ)山のことを意味するのかもしれないし、漢字どおり、神様の住む山ということかもしれない。
他にもいろいろあって、村山七郎という言語学者(日本語の起源は、アルタイ諸語とオーストロネシア諸語の混合言語であると主張)の説では、南島祖語「Rumah:家/穴居」が、muro < rumo < Rumah というように、mとrが交替した、といっているという。
他にも、「群れ」の語源は、インドネシアマライ語のmurah(多い)であるという説も出てきた。
どうも、この世界、何でもありなようだ。
正直なところ、地名の語源をさまざまな言語から探るというのは、意味があまりないのではないだろうか(面白いけどね(^^;)。
実は、ではアイヌ語はどうだろうと色々検索していたら、面白いものがヒットしてきたのだ。
ちょっと前、少し流行った「マル・マル・モリ・モリ」という子どもが歌った曲、この歌詞が実はアイヌ語で「侵略者、侵略者、死を与えよ、死を与えよ」という意味である、というデマがあったそうだ。アイヌ語でマルは食料、モリは小山という意味である、という一見もっともらしいデマもあったそうだ(実際はまるでウソらしいw)。
「マル」も「モリ」も、今まで調べていた言葉ではないか。しかも意味がまさに「小山」とか。。。
何とうまいデマだろう。微妙に「らしさ」が混じっていて、つい、本当かも?と思ってしまうような隙間をついている(こういう都市伝説は実にクダらないのだが、何か心の奥底の琴線に触れるものが確かにあると思う。でなければ広まったりしない)。
けれども、ここで、一気にやる気が萎えてしまった。
ということで、結論をいうと、大室山の語源は分かりません(^^;
こういう研究は、まあ本気で信じ込むようなものでなく、むしろエンターテインメントとして楽しめばいい類のものであろう、と自分的には結論した(専門の方がいらっしゃったら申し訳ない、おそらく自分の掘り下げの低さのためだろう。でも、自分的にはもうこの方向はこれで満足だ)。
普通に日本語の「室」(むろ)には、穴を掘って作る竪穴式住居の意味もあり、大きな火口のある山を表現するには「大室」はぴったりの名前のようである。あるいは、富士の大室山の場合、すぐそばに風穴・氷穴が数多くあり、それを大きな室と表現したのかもしれない。古代朝鮮語などをわざわざ持ち出さなくても、(実際の地理がきちんと反映・説明されるように)いくらでも説明はできそうだ。いずれにせよ、実証は不可能なのだから。
こういう類の文章の中で、もっとも面白いものは、やはり寺田寅彦の「火山の名前について」であろう(岩波文庫『寺田寅彦随筆集 第三巻』に収録)。
あえて「研究」などでなく「文章」と書いたのは、寅彦本人にとっても、間違いなく楽しんで書いた随筆のつもりだったはずと思うからである。
世界の火山の名前を、その発音で分類して、統計学的に検討するという、まさに寅彦らしい変なことをしてみせた。こういう突拍子もない遊びのようなところから、何か新しいものが生まれることもあるんだよ、と言われているような気がする。もっともらしく数式などまで出しているが、どう考えても無理がある(^^; けれども、面白い。
ちなみに、寅彦の、連歌と映画の関連性についての随筆、ねこの随筆もお勧めだ。
ぜひ一度読んでみてください(^^*
写真1:丹沢の大室山(自然教室方面から)
写真2:富士の大室山(野尻草原から)
写真3:伊豆の大室山(矢筈山から)
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する