おはようございます。今週、気象庁からメソモデル(MSM)の精度改善予定についての発表がありました。登山者視点の見どころを紹介してみます。
◆ 今回の改善点について
まずは気象庁の発表資料へのリンクです。
配信資料に関する技術情報 第 648 号 〜メソモデルの改良による予測精度向上〜
https://www.data.jma.go.jp/suishin/jyouhou/pdf/648.pdf
メソモデル(MSM)は登山者に身近なところではてんくらの3時間予報に使われている予報モデルです。
てんくらではMSMを使っていると明示していませんが、手元でMSMをデータ処理した結果とてんくらの直近表示値は一致するので間違いないと思います。
MSMは5kmメッシュで予報データ処理をしているのですが、このメッシュサイズ未満の地形による影響をうまく処理できるようになる、というのが今回の主な改善点のようです。
これは私の解釈ですが、たとえば850hPa気圧面の予報データに含まれる風速風向に影響する西側の高気圧による那須連峰での北西風、といった登山への影響が大きな地形要素を従来よりもうまく処理できるようになるのでは、と期待しています。
参考:季節ごとに注意すべき気圧配置と前線の動き|山岳気象予報士・猪熊さん監修解説【山登り初心者の基礎知識】
https://yamap.com/magazine/53442
精度向上の話は以上ですが、せっかくなので登山と気象予報モデルについてもう少し書いてみます。
◆ メソモデルの特徴と世界の気象予報モデル
コンピューターによる気象予報、数値予報と呼ばれるものには大きく分けて地球全体を扱う全球モデルと一部地域に特化したモデル(regional modelまたはmeso-scale model)があります。
現在気象庁では全球モデルのGSMと日本全体+αをスコープとする高密度モデルのMSM、さらにピンポイント・高頻度生成のLFMという3種類のモデルを主に運用しています。
このうち全球を対象とする予報、特に5日間予報については世界のどの研究機関もEUのECMWF IFSに勝てないというのが気象予報界の共通認識で(これはGoogle DeepMindのGraphCastがいかに画期的な存在であるかを逆説的に示してもいます)、2017年の気象庁の資料にも
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/shingikai/kondankai/suuchi_model_kondankai/part1/part1-shiryo3.pdf
「気象庁もそれに追随しているが、ECMWFとの差は縮まらず、2010年以降はUKMOやNCEPとも差がついてきている。」(p.20)とあります。
いっぽう、メソモデル(MSM)は初期時刻から39時間・78時間という比較的短期間で日本地域における緻密で精度の高い予測結果を出すことが求められるモデルです。
気象庁は近年、MSMやさらに局地版のLFMのしかも決定論モデルではなくアンサンブルモデル(専門的になるので詳しくは避けますが計算量が膨らむ代わりに予報確率を出せる手法、世界の流れはこっち)やゲリラ豪雨予報へ力を入れていますが、全球予測と全く整合しない局地モデルというのもあり得ないので複合的な資金/人的投資が必要で、GSM/MSMの複合的な改善は納税者としても歓迎したいところです。
ちなみにECMWFは windy.com を開くと標準状態で利用されるモデルです。山の天気予報を windy.com で見ている方もそれなりに居ると思いますが、無料版ではデータ更新間隔が12時間ごとである点に注意が必要です。
これに対してMSMは3時間間隔でデータ更新されており、登山者がよく使っているSCW天気や weather-models.info のようにMSMのデータ配信料を何らかの方法で負担してクイックに再配信しているサービスのほうが最新の観測値に基づいた情報が反映されやすくて直近予報には強い可能性も考慮するのがおすすめです。
◆ 無料の登山者向け天気予報サイトで使われている気象予報モデル
最後に、登山者によく使われるいろんな天気予報サイトのうち、無料で一部機能を使えるものが内部で使っている気象予報モデルについて、公開情報・非公開情報いろいろありますがデータ性質から分かる範囲でいくつかまとめてみます。
非公開情報と言っても不正な方法で調べたわけではなく、データ範囲に「84時間」と書かれていたらまず間違いなくGSM、とかそういう早押しクイズ的な調べ方です。
てんくらの直近部分3時間ごとの出力はMSMです。その先の週間予報範囲はおそらくGSMです。
ちなみに富士山山頂 https://tenkura.n-kishou.co.jp/tk/kanko/kad.html?code=19150004&type=15&ba=kk を見たときに高度4400m付近と高度3100m付近という2パターンが表示されますが、ここで「なんで山頂3,776mじゃなくて4,400mとか出すんだろう?」と思ったならば気圧面予報に関する良い着眼点です。ぜひ数値予報について調べてみてください。
「てんくらは麓の天気だから」と批判されることもありますが、これにはてんくらが持っている山のデータ設定品質にばらつきがあること・サイトの見づらさ・誤解・ポジショントークなどいろいろ混ざっている気がします。またいつかまとめてみたいところです。
ヤマテンのガイダンス天気( https://help.yamatenki.co.jp/hc/ja/articles/4402158534937-ガイダンスの見方 )は気象庁が出しているGSMガイダンスを使っていることがデータ期間の仕様( https://www.jmbsc.or.jp/jp/online/file/f-online11100.html と一致します)から分かります。
ヤマテンは有料サイトですがガイダンス天気機能は無料でアクセスできるので無料範囲と捉えています。
参考: ヤマテン無料会員でも使える天気・雷ガイダンスが便利です!
https://www.yamareco.com/modules/diary/745902-detail-311934
ヤマテンはさすがちゃんとしているなと感じるのが、ガイダンス天気をはじめとした専門天気図の初期時刻をきちんと画面内に記載しているところです。これが明示されていないデータを信じて登山するのには消費期限の分からない行動食のような怖さがあるので、ここの安心感は大切です。
windy.com は前述のようにECMWFを主体としつつ、GFS/ICON/MSMと各モデルを明示&切り替え可能な作りになっているのに加えて、それぞれの最終データ更新タイミングを明示しているのでだいぶ印象良いです。
特にairgramでの気圧面ごとの風予報の把握しやすさは無料天気予報ではトップクラスだと思います。これだけでも見る価値があります(airgramをMSMに切り替えると78時間以降はECMWFが使われることには注意)。
https://www.windy.com/35.363/138.728/airgram
逆にairgramと近隣ライブカメラを探す機能以外、イケてる風向きパーティクル表示や鮮やかな色表示はあまり見ても仕方ないというか、可視化されるのは地表面データがほとんどなので登山には役立ちません。こういうパッと目を引く要素をUIの世界では若干批判的な意味を込めてeye-candyといいます。しかし目を引くことでお金を払ってくださる方が居て無料範囲のサービスも充実するのです。ありがたいことです。
mountain-forecast.com や snow-forecast.com はNOAA(NCEP)のGFSを主体としています。これら2つのサイトは同一グループが運営しており、snow-forecast側のFAQにNOAAのGFSを使っていると明示されています。
https://www.snow-forecast.com/pages/faq
どうやら降雪量や積雪量のデータ生成には他ソースからのデータによる追加処理をかけているようですが、詳細はあまり検証できていません。GFSは windy.com に言わせると「山岳での予報精度に難があるもののデータの入手性が良いので広く使われている」ものですが、mountain-forecastは標高ごとの予報をチェックしやすいので重宝します。
ただ、GFSはメッシュが13kmとやや粗い(というかECMWFが9kmメッシュ高精度全球予報でトップをひた走っているのがバケモノです)のでピンポイントの直近予報は個人的には5kmメッシュのMSMを使うようにしています。
SCW( supercweather.com )は局地がLFM、詳細がMSM、広域がGSMです。
LFMはモデル自体がまだまだ発展途上で予報期間と予報密度と予報精度のバランスがまだあまり良くないため日常使いはしにくいと感じていますが、それはさておき現状無料・それなりのタイムラグでLFM予報の可視化結果へアクセスできるのはこのサイトだけではないでしょうか。
weather-models.info はMSMやGSM・ECMWFを含めた9モデルを比較できるのでとても便利でよく使っています。気象庁の最新予報データは基本的に配信費用がかかるのですが、このサイトでは提携先からデータ提供を受けているため無料サイトにも関わらず気象庁での予報データ生成後の表示までのタイムラグが少なくてとてもありがたいです。個人的には、7-10日程度の降水予報にはこのサイトのECMWFアンサンブル詳細版(1日2回更新)の1-5mm/24h降水確率をよく見ていて、おおまかに良さそうなエリアを見つけたら3-4日先までの9モデル比較で山域を絞り、山域を絞ったあとの直近39-78時間予報はMSMマルチビューワーを使っています。
表示できる気圧面のバリエーションが少ないので3,000m級の高山での詳細な風予報を把握するのにはあまり向きませんが、そこを windy.com のairgram機能で補完すれば日本国内の登山においてはかなり死角を減らせます。
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